抹茶な風に誘われて。
「ちょ、ちょっと優月! 謝るって約束だったじゃん!」とあせったように止めに入る咲の手を振り払って、悔しげな声が続ける。

「何にも気づかないで、また友達に戻れて嬉しい、とか言っちゃってさあ……本当、バッカみたい! あんたのことなんて、もともと友達だとか思ってないっつーの!」
 カールがかった髪を鬱陶しそうにはらいのけて、言い放つ。

 優月の言葉にさすがに耐え切れなくなったのか、ハナコが乱入しそうになるのを香織と駄目元が抑えているのが聞こえてきた。

「どうせあたしと付き合うようなヤツは、財布目当てか、あのクソオヤジの名前に付いてきただけなんだから。わかってんのよ、男遊びが派手だとか、父親の名前がなけりゃただのバカ女だとか、そういう陰口叩いてることくらい」

 吐き捨てるように言うその表情は一瞬苦しげにゆがめられていたが、あえてそれを見せないようにか、挑戦的にかをるを見上げた。

「ゆ、優月……」

 戸惑った顔で、名前を呼ぶ咲。

 それでも睨みつけるような瞳はそらされることはなかった。

 かをるの瞳から、静かに涙が一筋こぼれ落ちる。

 腕組みをして、壁にもたれて静観していた俺が行動を起こす前に、その唇がゆっくりと動いた。

「ごめんね、優月ちゃん――」

 聞こえてきた言葉に、耳を疑うような顔で優月が眉を寄せる。

 もう一度はっきりと同じ言葉を繰り返して、かをるが固まっていた体を動かした。

 一歩、一歩、優月に向かって歩み寄って――驚きに目を見張る彼女の首に、ふわりと両手を回して抱きしめたのだ。

「優月ちゃんをこんなに苦しめて、辛い思いさせちゃって……本当にごめんなさい。私、ちゃんとわかってあげられてなかった」

 こんな時まで自分を真っ先に責める言葉を吐く少女に、その場にいた全員が驚愕していた。

 唯一俺だけは、半分予想できた展開にため息をついていたのだが。

「なっ、何言って――バカじゃないの!? それ本気で言ってんの? 自分を退学にさせようとした相手に向かって、し、信じらんない――」

 動揺を押し隠して、嘲笑う優月。

 それでもかをるは、ぽろぽろと透明な涙を流すのだ。
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