抹茶な風に誘われて。
「いつからお前らの趣味は覗きになったんだ? 本気で警察呼んでやってもいいんだぞ? この、変態どもが――」

 まだまだ続けようとした俺の言葉は、三人のそばに閃いた別の人影を見たことで止まる。

「いってーって、香織さん! 頼むから早くどいてくれよー!」

「だって、ハナコさんがさあ」

「あらっ、あたしが重いみたいな言い方しないでちょうだいっ! これでも三キロやせたのよお?」

 などとどうでもいい自己主張に懸命ないつものメンバーを苦笑いしながら見守るのは、少女二人。

 それぞれにピンクと黄色の浴衣を着込んで、団扇片手に開き直ったように庭へ入り込んできた。

「す、すみませーん、お邪魔します。あの、かをるちゃんがお月見一緒にどうかって声かけてくれてたから」

 そう遠慮がちに笑う咲の後ろから、しっかりとピースサインをしてみせたのは優月だった。

「惜しい! キスシーン見逃しちゃったあー! 静先生、もっとがばっと襲わなきゃさあ、かをるちゃん相手じゃいつまでも先に進まないよー?」

 開き直りのついでに立ち直りまで早いらしい少女は、浴衣に描かれたひまわりのような笑顔で俺にウインクする。

 静かだった庭にわらわらと集い出した面々に、月見団子もあっという間に片付けられて――赤い頬で照れていたかをるもいつしか、自然な笑顔で俺を見やった。

 無礼講だとか何とか、駄目元が持ち込んだ酒に手を出そうとする優月をさすがに注意して、苦笑する。

 秋風にさわさわと揺れるススキと、黄色く浮かんだ大きな満月。

 仕方なしに点ててやった抹茶を手に、皆が嬉しげに秋の夜更けを楽しむ。

 騒々しいやり取りを縁側から見守りながら、俺はかをるの肩に腕を回した。

< 220 / 360 >

この作品をシェア

pagetop