抹茶な風に誘われて。
「うふふん、今日もデートは順調だったみたいねえ」

「デ、デートってそんな……ただ、あのっ、茶道と英語をいつもみたいに教わってきただけですから」

 なぜか声が上ずってしまった私をじいっと見て、葉子さんは自分の分も持ってきたらしいマグカップを片手に微笑む。

「ふうーん、茶道と英語をねえー。いいわね、彼氏がどっちも堪能で」

「は、はあ……」

 白いセーターの上からは例の印なんて見えないはずなのに、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。

 まるでさっきまでのドキドキを見透かされているみたいで、急いでココアを口に運んだ。

「あっ、あつっ……!」

「あらあら、そんなにあせって飲まなくてもいいのに。やあねえ、かをるちゃんったら。私は別に口やかましい母親役やるつもりなんてないんだから、話しやすい親戚のおばさん、ぐらいのつもりで何でも話してくれていいんだからね?」

「葉子さん……」

 優しい瞳に感激していたら、後ろから顔を出したおじさん――フラワー藤田の店長さん、兼今の私の保護責任者でもある人だ――が目じりに皺を寄せて笑った。

「おっ、かをるちゃん、騙されちゃだめだぞ? 優しい顔してあれこれ聞き出そうとしてるんだから。葉子の戦略に乗ったらあっという間にプライバシーなんてなくなるからなあ」

「おじさんったら!」

 一応抗議したものの、いたずらっぽい目つきの葉子さんが途端に笑い出して、それが事実だったのだとわかる。

 ついぽろっと何でも話しそうになる自分をなんとか押し留めた。

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