抹茶な風に誘われて。
「また『静さん』か」

 ため息まじりに呟いた後、アキラくんが乱暴に足を組みかえる。

 にこやかな顔が不機嫌そうにゆがんで、思わず顔を上げた私を、アキラくんはまっすぐに見つめた。

「あんなヤツ、お前が好きになる価値なんてない男だぜ」

 どういうこと、と訊ねようと開いた唇が、次の瞬間固まる。

 バサバサバサ。トレイをどけたテーブルの上に無造作にばらまかれたものは、たくさんの写真だった。

 言葉の出ない私を無表情に見て、アキラくんが唇の端だけを上げる。

「これが何だかわかるか?」

 訊ねられるままに目線を下ろす。広げられた写真。

 ざっと見ても五十枚以上はあるそれは、全部どこかの街角で撮ったような構図に、映っているのは女の人ばかりだった。

 まるでトランプを捲るみたいに持ち上げていきながら、アキラくんが言った。

「全部、あの一条静が付き合ってきた女の写真だよ。主にホスト時代が多いけど、そうじゃないのもある。とにかく――この全部と肉体関係を持ったってことだけは確かだ」

 頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃に、そのまま言葉を失った。

 ――付き合ってきた女の。肉体関係を持った――アキラくんの妙に落ち着いた声だけが頭の中に回り出す。

「一度きり、なんてのも含めたらこれだけじゃ済まないくらいだそうだ。今はどうだか知らないが、こんな奴と付き合いを持つってことがお前にとってプラスになるとは思えない。だから……」

「し、調べたの……?」

 瞳は見開いたまま、震える声が喉からもれる。まるで自分の声じゃないみたいな、頼りない響きだった。
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