抹茶な風に誘われて。
 あっさり頷いたアキラくんが、悪びれもせずに両腕を頭の後ろで組む。

「ああ。これぐらいのこと、興信所を使えばすぐに調べられる情報だよ」

 パシン、と乾いた音が出て初めて、自分がアキラくんの頬を打ったことに気づいた。

 一瞬意外そうに瞬きをした後、すぐに挑戦的な視線が私を射抜いた。

「恨まれたってかまわない。それがお前のためになるならな――ほら、知りたくないか? この一人一人があいつとどんな顔して寝たのか。あいつが、どんな風に愛を囁いたのか……」

「やめて!」

 叫んだ途端、涙があふれる。

 そんなの嘘だ、全部でっちあげに決まってる――そう叫び返したいのに、なぜか自信に満ち溢れた目で、これが真実なのだと突きつけられた気がして。

 ふと見れば周りに少しだけいたカップルやグループのお客さんたちが、ひそひそと囁きあいながらこちらを見ていた。

「わ、私……帰る」

 それだけを言い残して、立ち去ろうとする私の腕をアキラくんが掴んだ。

 振り払おうにも力が強くて、精一杯の抗議を込めて睨む。

「いいのか? 帰っても。お前の親のこと――知りたいんだろ」

 あくまで悪びれない調子の声に、いや、その内容に足が止まる。

 ずっと知りたいと願ってきた。

 あきらめてもあきらめきれなかった想いに、振り向いてしまう。

 そんな自分が嫌になって、頭を振ってもう一度背を向けた瞬間。

「お前の親は――いや、二人の墓は京都にある。施設の先生さえ知らない場所を、俺は知ってる。一緒に来るなら、案内してやってもいいぜ」

 乾いていた心の一番奥に、今聞いたばかりの情報が染み渡っていく。

 先ほど流れた涙の痕にまた新たな雫がこぼれ落ちた。
 
 再び向き合った先で、アキラくんはただ静かな瞳を向けている。

 何か言いかけた唇は中途半端に固まって、テーブルに広がる写真の数々に目線を落としたら――蘇った痛みが胸を刺した。

「よく考えてみな。お前にとって、どうするのが一番いいのか。答えが出たら、俺が京都に案内してやる。それから――オヤジの待つ、アメリカへ」

 あふれた涙で視界がぼやけて、最後に聞いた言葉だけを耳に、私は走り去っていた。
 
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