抹茶な風に誘われて。
 同窓会のハガキが来て、しかもそれが俺宛のものだったと――それで気づけばあの屋敷の前まで来ていたのだと笑った。

 何か責任を感じたらしい綾子に訊ねられて、仕方なしに教えた携帯番号に連絡があってから既に二日。

 以前のように藤田葉子が心配して来ないことを思うと、その辺りの事情も知っているのだろうか。

 俺の無言の拒絶を感じるのか、いつもなら呼ばずともやってくる騒々しい連中も電話一つよこさなかった。

「くそ……どうしろと言うんだ」

 畳の上に寝転んで、瞳を閉じる。

 瞼の裏に浮かぶ笑顔は、見られなくなって久しい少女のもので。

 きらりと輝いた指輪を幸せそうにはめて微笑む、花のような明るい表情。

 それを曇らせているのが自分であることに、どうしようもない怒りがこみ上げる。

 それでもどこかで二の足を踏むのは、拒絶されたことで生まれた小さな棘のせいなのだろうか。

 棘は虚勢で膨らませた心などあっという間にしぼませてしまう。

 ほんの小さな、たった一つの棘が生み出す戸惑いと不安は、怯えという名の後ろ向きな感情に変化していく。

 まるで、背を丸めた幼い自分を見ているような――そんな感覚。

 本気で愛そうとした相手が、真正面から自分を拒絶し、背を向けられてしまうことがどれほどに恐ろしいことか。

 それが古い記憶であればあるほどに、深く沈んだ無意識の自分を攻撃するのだ。

 手の平からこぼれ落ちていく透明な水の流れ。美しく咲きほこる、優しい花々。

 そんな幻像が頭を駆け巡り、知らずため息をついていた。

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