抹茶な風に誘われて。
 ――このままでは、本当に失ってしまう。

 ズキンと痛んだ胸は、そのまま正直な自分の心だった。

 途方に暮れかけて、自分の手の平を見つめる。

 いや、違う。もう俺は――あの頃のような、無力でちっぽけな子供じゃない。

 自分の手で、愛しい女の一人さえ守れないような、そんな情けない男じゃないはずだった。

 そう、かをるを傷つける者は許さないと思った。あれはこんな自分をも含めて、の話ではないのか。

 強く手を握り締めて起き上がる。

 今更ためらうなら、最初からあの手を取らなければよかったのだ。

 既に手にした温もりを、忘れることなどできないくせに――。




 *


 京都から帰って、五日が経つ。

 たった五日。それでも自分にとっては、長い長い時間だった。

 初めて目にした両親のお墓、そして信じていた人の心変わり――それまでにもずっと軋みを上げていた心は、もろいガラス細工のように壊れてしまった。

 アキラくんと京都へ行く事情は説明してあったから、葉子さんもいつものように追及してこようとはしなかったけれど、私の様子からアルバイトもお休みにしてくれたのだ。

 学校だけは頑張って通っていたものの、とても優月ちゃんや咲ちゃんに話す気にもなれなくて――両親の事情だけを教えた。

 本当はずっと前から薄々感じていた。きっと両親はこの世にはいないのだということ。二度と会えないのだということも。

 施設の先生が言葉を濁すのは、話せないようなことだからだとわかっていた。

 だからそれほど大きなショックではなかったけれど、実際にお墓を見られたことでけじめはついたし、お参りできたことは嬉しかった。

 それでも落ち込んでいた私を、おそらく両親のことを知ったからだと思ってくれたらしく、咲ちゃんたちも多くを聞かなかった。

 気を遣って接してくれる二人と別れて、今日もフラワー藤田の二階、自室として与えてもらっている角部屋に閉じこもる私。

 ベッドに横になって、目を閉じても浮かんでくるのは京都の山の光景、寂しすぎるお墓、それから……親しげに話す、静さんと知らない女性。
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