抹茶な風に誘われて。
「ちょっと、かをるちゃん困ってるでしょ? いいかげんにしなよ。かをるちゃんにはちゃんと婚約者がいるんだからね」

 いつものように颯爽と間に入ってくれる咲ちゃんに追い返されて、アキラくんは不服そうに両腕を頭の後ろで組んだ。

「さーてどうかな。婚約ったって、単なる口約束だろ。いつ白紙に戻ったっておかしくないってこと……」

「白紙になんてならない!」

「かをるちゃん……」

 驚いた顔をしたのはアキラくんだけじゃなくて、仲裁してくれていた咲ちゃんもだった。

 声を荒げてしまったのはいいかげん我慢ができなかったこともあったけれど、静さんが不実な人だと断言するような言い方が許せなかったからだ。

 アキラくんの話を一時でも信じてしまった自分も含めて。

「ごめんなさい、大きな声出して……でもアキラくん、私は静さんとの婚約を解消する気なんてないから。そういうこと言うのはやめてほしい」

 私は、という部分を強調してしまったことが複雑だったものの、しっかりと目を見て言えたことで幾分ほっとした。

 私への優しさから言ってくれているとしても、アキラくんは静さんのことになると厳しすぎたから困っていたのだ。

「――わかったよ」

 笑いを消して答えたアキラくんが背を向ける。

 一瞬だけ見えた瞳がすごく冷たいものだったような気がして驚いたけれど、しばらくして再び教室に戻ってきたアキラくんはいつも通り明るい顔で話しかけてきて。

 それは京都へ行く前も、行った後も変わらない態度だったから――私は気づいていなかったのだ。

 彼の心の中で、冷たい炎が燃えていたことを。

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