抹茶な風に誘われて。
「そんなことで……お前の勝手な都合で、かをるを傷つけようとしたのか」

 抑えようとしても、拳が震える。

 椅子にかけられていた上着を着込んだかをるを、そっと自分の背後に押しやった。

「そうだ――似てると思わないか? オヤジを憎んでるってところなんて、あんたと俺――」

「……甘ったれるな!」

 もう堪え切れなかった。

 体中が煮えたぎったが、こんなくだらない奴を殴ることすら馬鹿らしく感じた。

「自分の国籍も変え、養子になった。言葉のわからない国で、跡取り候補としての勉強も死ぬ気でやった。でもいくらやっても期待に応えられなかった。失望は絶望に変わり、自分自身を否定して――結局は他者への恨みに変わる。そんなところだろう。……ああ、そうだな。俺にだって覚えはある感情だ。似た者同士にしたければ、勝手にすればいい」

 殴りも何もしていないのに、俺の迫力に負けたのか、男は一歩、二歩と後ずさり――しまいには壁を背にして、悔し紛れなのか睨みつけてくる。

 二人の間の不穏な空気に怯えるように、かをるが心配そうな顔で俺の袂を引く。

 わざとにこやかに微笑んでやってから、天と地ほどにも差のある目つきで男を射抜いた。

「だが、一つだけ言っておく」

 何か言おうとしたのか開かれた唇は、悔しそうに噛みしめられた。

 俺の瞳に宿る感情を察したのかもしれなかった。

「――自分の足で立つこともできないガキに、親をどうこう言う権利なんてないんだよ」

「何、だと……?」

「お前が望んだことではないにしろ、今のお前を育て、全ての面倒を引き受けているのは誰だ。理不尽なことがある。許せない思いがある。それならそれだっていい。だからこそ、死ぬ気であがけ。もがけ――そして自分の足で立てるようになってから、初めて選択を下すことの意味がわかる。敷かれたレールが嫌なら、そこから抜け出すことだってできる。ただし、それはあくまで自分自身のために、だ」

 ただ恨めしそうに俺を見ていた瞳が、ゆっくりと見開かれる。

 目を逸らし、拳を握り締める子供の顔が、一瞬幼い自分のものと重なった。
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