抹茶な風に誘われて。
 ――そう、だから最後まで、決断は自分が下さなければいけないんだ。

 放った言葉は、目の前の男のためのものだったのか、それとも――。

 皮肉な話だ、と浮かんだ笑みを殺していたその時だった。

 キイ、と静かに開いた扉の向こうから、拍手の音が聞こえた。

 振り返った俺たちを見つめていたのは、五十代半ばほどのスーツの男。

 知らぬ顔に眉を寄せた俺の隣で、かをるが息を呑む。

 今までうなだれていた男が、信じられないように顔を上げた。

「……オヤジ」

 かすれた声で呼ばれて、いかにも、といった笑顔で肩をすくめる。

 それが白井グループ社長、白井啓三なのだとわかった瞬間、殴られて吹っ飛んだ男が見えた。

「おじさん……!」

 悲鳴を上げたかをるに、白井啓三は深々と頭を下げる。

 話のやり取りでか、乱れた着衣を見てなのか、とにかくことの経緯を把握している顔だった。

「すまなかったね、かをるちゃん。本当は久しぶりだと笑って挨拶したかったんだが……どこも怪我はないかい?」

「だ、大丈夫です……」

 困ったように答えるかをるに頷いて、続いて俺にも礼をした。

「あなたが一条静さんですね。かをるちゃんと婚約を交わした仲だということは聞き及んでおります。うちの馬鹿息子が、とんだご迷惑をおかけしたようで――」

 たった今思いきり殴った相手をこともなげにそう呼んで、白井啓三は謝罪を述べる。

 予想を外れたきっちりした態度に、俺も何も言えなかった。

「な、んだよ――何でオヤジがここにいるんだよ!」

 赤くなった頬を押さえ、怒りと悔しさでか真っ赤になった顔で詰め寄る。

 そんな息子を一瞥した白井啓三は、ため息を一つもらして、答えた。
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