抹茶な風に誘われて。
「お前のために決まってるだろうが。日本に行ってみたいなんて言うから、ろくなことは考えてないだろうことはわかっていた。何をしでかすつもりかと静観していたが、無理に撮影をセッティングさせたと聞いてさすがに私が出向かざるを得ないと判断した。それに――お前はずっと、私を恨んでいたようだからな。」

「しっ、知ってたって言うのか――?」

「もちろん。自分の息子が考えていることなど、わからぬ親がいるものか。それでも息子のためになら、何だってしてやりたくなるのが親というものなんだぞ、アキラ」

「……っ、今更オヤジ面してんじゃねえよ! 血もつながってないくせに――!」

 叫んだ言葉は、もう一度殴られたことで続きを失う。

 白井啓三がさっきまでとは違う真剣な瞳で、対峙していた。

「たとえお前が私を父だと認めなくても、私はお前を養子にしてからずっと、本当の息子だと思って接してきた。だからこそ、厳しくもした。全て――お前のためだと思ったからだ」

「う、嘘だ……オヤジは俺なんかより、かをるのことを……っ」

 必死で言い返す、その顔はまるで幼い子供が親の愛情を試すかのような表情をしている。

 それに気づいていないのは、本人だけだというのに。

 目を逸らした俺の隣で、白井啓三はふっと笑った。

 そのまま床に倒れこんだ息子の頭を、ぐしゃりと撫でたのだ。

「そんなことを気にしていたのか。お前は本当に馬鹿だなあ」

 むしろ愛しげに響いたその言葉で、白井アキラは顔をゆがめた。

 まだ虚勢を張ろうとしたその体を抱きしめて、父親は笑う。

「馬鹿だよ、本当に……」

 ポン、と何度も背中を叩きながら、笑い続ける。

 その瞳が少し潤んでいることに気づいたのは、そばで見ていた俺とかをるだけだったのだろう――。
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