抹茶な風に誘われて。

Last Ep.16 未来

「うわーっ、かをるちゃんすっげー綺麗! しとやか! よっ、ザ・大和撫子っ!」

 大げさに褒め称える亀元さんの声で、みんなが振り向いた。

 拍手と口笛を送られて、恥ずかしくて助けを求めた方向には、着付けてくれた静さんが満足げに微笑んでいる。

「仕立て直しておいてよかったな」と呟く言葉にやっぱりためらってしまう。

「でも……本当にいいんですか? 大切なお着物なのに」

「ああ。母もきっと、お前に着てもらって喜んでるはずだ。それに――茶道具にしろ着物にしろ、人のために作られたものを寝かせておいてどうするんだって、大八木の婆さんだって常日頃言ってたからな」

 静さんのお母様が唯一持っていたお着物――それは先日一条のお父様が遺品の中から送ってきてくれたもの。

 二人が出会った頃にお父様が贈ったものらしく、静さんさえも見たことがなかったと驚いていた大切な形見だから――。

 身長だけは私より高かったようで丈を直してもらったけれど、ほっそりした体つきは私とそう変わりなかったらしい。

 鮮やかな色合いを好まれたというお母様のために、美しい緑の友禅振袖。

 大輪の花が風に舞う絵柄は派手なようにも思えたのに、着てみると意外としっくり落ち着いた。

「ありがとうございます……静さん」

 そして――天国のお母様。

 心の中でそっと続けた私の声が聞こえたかのように、いつもの微笑を返してくれた静さん。

 しばらくじっと振袖を見つめていたかと思うと、そばにいる私にしか聞こえない声で、そっと呟いたのだ。

「あの父がこれだけの品を母に贈っていたなんて、な」

 小さく笑ったその表情は、いつもどこかに背負っていた影をやっと忘れられたような――優しい色をしている。
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