抹茶な風に誘われて。
「暑い時に飲むと、背筋がしゃんとする気がするだろ? ほら、菓子もどうぞ。本当は茶の前に出すものなんだけど、なんとなく先に抹茶本来の味を知ってほしくてね」

「はい、いただきます」

 今度は自然な笑顔を向けられた。

 ただそれだけなのに、なぜかまぶしく見える。

 ――おかしな気分だ。ただ自分の点てた茶を喜んでくれた。それだけなのに……。

 胸の中が少しくすぐったいような、そんな気分。

 気にすまいと、俺も一緒に千手堂の生菓子を口に運んだ。

「可愛い……これ、お菓子もナデシコなんですね。千手堂に置いてるの、見たことあります。涼しげなガラスの器によく似合って、まるで綺麗な川の水面に落ちた花びらみたい!」

 両手を合わせ、感激したように呟くかをる。

 駄目元にはない感性にまた感嘆しつつ、俺は花入のナデシコに目をやった。

「茶道では、出来る限りの趣向を凝らして客をもてなすのが基本精神でね。そのためには花や花入れ、菓子ももちろん、その器にまでこだわる。野点では細かい作法はないけど、逆にその分、客と一緒に自分も気楽に茶を楽しむことができる」

 流れ落ちてきた前髪をかきあげて、微笑む。特に意識したつもりはなかったが、かをるはなぜか赤くなって頷いた。

「あ、あの――あたし……ごめんなさい!」

 いきなり謝られて、目を瞠る。

 俺の不思議そうな顔に気づいたのか、かをるは膝の上で両手をもじもじ組み合わせながら続けた。


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