抹茶な風に誘われて。
「初対面の時、勝手に勘違いして、非難してしまって……本当にごめんなさい。お花を大事にしない人かと思って、つい――静さんはそんな人じゃないのに、こんなに素敵な人だったのに、あたし、失礼なことしてしまいました」

「素敵――俺が?」

 あっけにとられて問い返すと、かをるは更に赤くなる。

「あっ、ちがっ……えっと――お花もちゃんと大事にしてて、何よりもこうして人の気持ちとかも大切にする、いい人だってことが言いたくて」

「いい人……」

 オウム返しに呟く俺の前で、かをるはりんごのような頬をして笑った。

「はい。心を込めて私をもてなしてくださいました。だから――静さんはいい人です。そうじゃなきゃ、こんなにおいしいお茶を点てることなんてできませんもの」

 束ねたふわふわの髪が、幾筋風にそよいでいる。こげ茶色の瞳が優しく俺を見ている。

 蝉が鳴き、野点傘の下でもまだ夏の午後は暑い――なのに、なぜか俺の心は冷えていた。

「お前に何がわかる……」

 思わず滑り出てしまった言葉。

 聞き取れなかったのか、かをるは小首を傾げた。

「おいしいお茶が点てられたらいい人か。単純で結構だな――世の中そんなに甘くない。出会ったばかりの俺がいい人かどうかなんて、どうやってわかるんだ? 現に、こうして家に二人きりで……俺が何もしないって保証はどこにある?」

 皮肉めいた、ゆがんだ笑みが顔に浮かぶ。

 かをるの瞳が更に大きく見開かれる。

「だ、だって――さっき約束してくれました」

 強張った顔で答えるかをるを、俺は鼻で笑った。

「約束ってのは……果たされてみて初めてそう呼べるものだ」

 なぜかむしゃくしゃして、細い手首を掴んだら――つきあげてくるような衝動を止められなくなった。

 一気に引き寄せて、驚きに開いたままの薄い唇を奪った。
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