抹茶な風に誘われて。
 確かにムーンリバーと英字で書いたプレートには、ホストクラブと書かれている。

 えっと……ホストクラブって何だろう?

 よくはわからないものの、とにかく配達を終えるべく、注文の真っ赤なブーゲンビリアの花束を手に取ると、地下一階に続く階段を下りはじめた。

 その時――下から同時に駆け上がってきた人影とぶつかりそうになる。

「きゃっ……」

 バランスを崩してこけそうになるのを、がっしりと支えられた。

「わーっと! ごめんごめん! 大丈夫!?」

 賑やかな声は確かに聞き覚えがあったもので、顔を上げて目を見開いてしまった。

「あ、あなたは――」

「そう! 俺、亀元! 覚えててくれた!? うっわ、マジ感激! 本当に君が配達来てくれると思わなかった! よかったー頼んでみて!」

 自分でもう一度自己紹介してくれた亀元さんの言葉に、驚いて手の中の赤い花と彼を見比べる。

「このお花――亀元さんが?」

「そうそう! 今日俺の数少ない指名客の誕生日でさー、なんかそのブーゲンなんとかっつー花が好きなんだって。だから寂しい懐から奮発して、用意したわけよ! やっぱ、こーいう気遣いがホストには不可欠っつーの?」

 わはは、と明るく笑って金髪の頭をぽりぽりと掻く亀元さん。前に目にした時とは違って、その髪の毛はワックスであちこちはねさせたような、よく街角に立ってるお兄さんがしているスタイル。

 私が黒いスーツ姿をただ見上げているのに気づいたのか、亀元さんはシルバーの指輪をいくつかはめた手で髪をかきあげ、ふっと笑ってみせる。

「あ、まだ言ってなかったよね。俺、源氏名はヒカル。二十三歳。このムーンリバーで、ホストやってます。よろしく」

 ポケットから名刺を渡して挨拶した亀元さんが、私の反応を待った。

「ホスト――って何ですか?」

 考えてもわからなかったので、素直に訊ねたわけなんだけど、亀元さんは見事にずっこけた。
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