抹茶な風に誘われて。
「えーっ、結局付き合うことにしたのかよ! くっそーやっぱ静、決めたら早いよなあ。っていうか早すぎ。あーあ、だめだったらかをるちゃん俺が慰めるつもりだったのに」

 座布団をぎゅっと抱きしめて、なにやら変な妄想をしているらしい駄目元を小突いて、雑巾を手渡す。

「うるさい、黙って掃除しろ、掃除。あいつをお前の妄想の相手にするな、駄目元のくせに」

「かーっ、なんだよもう亭主面かっ、このむっつりスケベが! まーったく、かをるちゃんってばこんなオヤジのどこがいいんだか! 若さなら断然俺だろ?」

 一人納得できないように畳の上を転がりまわる駄目元にため息をついたら、代わりに出てきたハナコが笑った。

「若さだけでしょー? あんたにあんのは。まあ、男の魅力じゃ静ちゃんにはかなわないわよ。特に夜は」

「やーね、一緒にベッドに入ったみたいな言い方しないの。んもう、どいつもこいつも。付き合うって言ったって仮でしょ? 正式に付き合うかどうか見極めようって話らしいじゃない」

 むふっと含み笑いをするハナコの肩を叩くのはあきれ顔の香織だ。

 どこから探してくるのか、今日もどぎついパープルのスーツを着ている。

「正式とか仮とかどうでもいいっつーの。付き合うっていったら一つしかないじゃん。要するに男と女としてこれから一緒に過ごそうって話だろ? 一旦そうなればもう後は下り坂だよ。くわああ、そりゃあ静の手練手管にまいらない女がいるわけないし。あーあ、また一人世の中から清純乙女が消えていくんだー静のせいで。あっ、俺ってば今のダジャレ? 座布団一枚、なんつって、ははは」

「う・る・さ・い」

 ダン、と壁に手をついて発した俺の一言で、ようやく部屋は静まり返った。

「ちょっ、ちょっと静ちゃん、いつになく真剣じゃない?」だとか「やっぱ今回は本気なんだって。うわー静の本気、結構久々じゃねえ?」だとか「清純乙女で幕引きかー。ま、静もここらで年貢の収め時ってやつかもね」だとか言う小うるさいハエのような小声も、俺が有無を言わせず雑巾を押し付けたことで消えた。
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