天神劇場

新年を迎えまして



【べ、別に!お兄ちゃんがいないからって寂しいわけじゃないかんなっ!】



「はー…」

大きな溜め息をついているのは、ブラコン宇宙人の水無瀬 陽。

もう少しで新年だというのに何とも辛気臭い。


「陽、どうした?」

「んー、別にぃ…」


そんな陽に声を掛けたのは彼の父親。黒髪で切れ長な目は兄を彷彿させる。いや、兄が父の遺伝を受け継いだのだろうけれど。


「陽?」

「はー…」


テレビ画面に映る『大人の使いやあらへんで』通称オトツカに視線を投げつつも、内容が頭に入っているとは思えない。


せっかく帰星したというのに、息子は一体どうしたと言うのか。


…と、そこへ響く女性の声。


「――…陽、貴方遥がいないからって不貞腐れないの」

「だって母さん!お兄ちゃんってば今年は地球にいるなんて言い張るから!」

「仕方ないでしょう。遥だって子供じゃないのよ」

「だったら俺も…!」

「誰も帰って来なかったら私達が寂しいじゃないの」


そんな我が儘な彼女は皆様御察しの通り、陽と遥の母親である。茶髪ロングは陽と同じくふわふわで、とても可愛らしいのだが…、


「全く…、いつまで経っても甘ったれねぇ」


如何せん、性格がキツイ。


「まあ、良いじゃないか梓(あずさ)。久しぶりに陽が帰って来たんだから」

「睦儀(むつぎ)さん!もう…」


そして始まる両親のイチャラブタイム。去年までは自分も兄に引っ付いていれば良かったのだが、今年はいない。

いちゃつくのは地球に戻ってからにしてほしい。


「そう言えば、チカちゃんも帰って来てないらしいわね」

「………」

「何かあったの?」

「………」

「あ、もしかしてついに彼女でも出来た?」


……無駄に勘が良い女とは厄介なものだ。


「遥にも彼女が出来たらしいし、ふふ…若いわね」

「梓も…今だって若くて可愛いよ」

「あら、睦儀さんてば…」


全くいい加減にしてほしい。このバカップルめ。

イライラ。


「陽も遊んでばかりいないで……良い子いないの?」

「いないけど…何、文句でもあるわけ」

「別にぃ」


イライラ。


「陽、」

「……なに」

「……みかん食うか?」

「……うん」


もぐ。



「あら、いつの間にか年越してるじゃないの」



除夜の鐘なんてないけれど。

「明けましておめでとう」



取り敢えず、今年の目標は

「奪お兄ちゃん!」







(本当にいないのかしら)

(本人が言っているからねぇ)

(でも息子達は顔に似合わず鈍感なのよね…)



母には何でも
お見通し




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