箱庭ラビリンス
「ちょっと、ボーッとしてた」
慌てて鞄の中に教科書と筆箱等を詰めていく。乱暴に乱雑に。
「もう帰るの?」
問い掛けに視線を向けずコクリと頷く。
――……それを考えると彼は……私を気に掛けてくれているのかもしれない。
いつもは音楽室に一足先に彼が行き、遅れて私が行くのだからこの時間に彼が教室にいて、声を掛けるのは珍しい。よりも初めてで。けれど、決してそれを顔には出していなかった。
私だってそうだ。気に掛けて欲しい訳でもない。
「――……また……ピアノを聴かせてくれると……嬉しい」
「――うん」
だからそうやって、私は一人になるんだ。本心は嬉しいのに、反面で困惑するんだ。気に掛けて欲しくないと嘘ついてまでそうやって一人になろうとする。
そう言う生き方しか私はしてこなかった。