百物語

┣22本目 心が痛む笑顔

ーー会場全体が先程の話で笑いに包まれており次の語り部が中々出てこない。


ーーあのー?次の方は?


痺れを切らした主催者が声をかける。


あははは…ちょ…ちょっと待って…あははは


ちょっとぉ!笑い事じゃないから!


ご…ごめ…ぶふっ


ふーくーなー!!早く続けてお願い!


顔を赤くし前の話の語り部が叫ぶ。


ーー5分後。


いやぁ…すみません。怖い話なんだろうけど…つい笑ってしまって…。イケメンな雷魚…会ってみたいです…ぷっ。


あーあーあー!!早く続けてぇ!


分かってます、分かってます。では…流れをぶった斬らせていただきますよ。


あれは…そうですねぇ……。数年前だったでしょうか。僕は市民センターで遅番担当…いわゆる18時から21時の勤務だった時期があるんです。その日は近くの学童のイベントで和室を2つ使ってお化け屋敷をしてたんです。


真冬だったんですけどね。真冬のお化け屋敷としてそれはもう子どもたちは大喜びで参加してました。かなり本格的に使っていて前日から準備のために貸し切っている状態でした。あまりのクオリティに学童の先生たちは本当に凄いと感じましたよ。


そのクオリティだからか何人か泣く子が居て2階でしてたのに悲鳴が1階まで聞こえてくるくらいでした。


無事イベントも終わり一緒に準備していた保護者さんと打ち上げをするというので21時まで荷物をそこに置かせてて欲しいと言われたので了承してました。


遅番の仕事は最後に館内の点検をするんですがねぇ…。その見回りが終わった後、荷物を取りに来るのを待っている時でした。


ーースタスタスタスタ…


廊下から足音が聞こえて来ました。「学童の先生が取りに来たのかな?」と思い「お疲れ様です」と声を掛けて事務室の扉を開けました。


…でもね。誰もいないんですよ。「あれ?2階に行ったかな?」と思ってたんですけど、開けたと同時に足音は聞こえなくなったんです。


ーーそこで気づいてしまいました。足音は左から右に聞こえて来たんです。


左は階段がある方向でして、右は…出入り口しかないんです。あるとすれば壁だけ…。


それに気づいた僕は早々に外に出て外のベンチに座って待ってました。


数分後学童の先生2人がほろ酔いで戻ってきました。


「遅くなりましたー!あれ?外で待ってたんですか?とって来ますね!」


そう若い学童の先生が中に入っていきました。


もう1人の先生は自転車をとってます(飲酒運転はダメですよ)


「○○さん寒いのに外で待ってたんですか?」


自転車を手にニコニコと話しかけてくるもう1人の先生に僕は恐る恐る先程の出来事を話しました。


「え…」


さっきまでニコニコしてた先生から笑顔が消えました。


暫しの沈黙の後…


「すみませーん!□□先生お願いしますねー!…あれ?どうかしました?」


あっけんからんとしてる若い先生を僕達は気の毒そうに見てから暗黙の了解で真実は伏せて鍵だけ閉めてそのままそこを後にしました。


…そして僕は心の中で謝りました。若い彼女にその出来事を言わずに中に入れたことを…。

幸いその後は何もありませんでしたがあの彼女キラキラした笑顔を思い出すたび…心が痛みます。


これが僕が体験した話です。


ーーフッシュポ
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