百物語

┣5本目 猫憑き 其の一

人間の怖い話とは中々怖いですね。

じゃあ、今度は僕がお話しましょう。

僕のは動物の怖い話です。
僕の父親が幼かった頃の話なのですが、その頃丁度「黒猫は不吉」が真っ只中だった頃らしく黒猫を見ると子どもなんかが「死神!!」と石を投げるのが当たり前の時代でした。

父はそんなの迷信だと思っていたらしいですが、ある日友達と下校してるとなんだか変な音がして草むらを見に行くと同じクラスの…いわゆるヤンチャ系の男児が数名何かを取り囲んでいました。


見に行くと黒い小さな子猫でどうやら足を怪我しているらしく動けない様子だった。


動けない小さな命に男児達は笑いながら砂をかけたり、ジュースをかけたりしていた。


流石にと思って声をかけるも耳を貸さず…それどころかだんだん過激に攻撃し始めたそうです。

その内子猫の近くに足を投げ始め、怯えて小さく鳴く子猫を嘲笑っていた。


「おい。お前らいい加減にーー」


そう言った瞬間でした。


ーーギニャッ!!


潰された様な子猫の声に見てみると少し大きめの石があろうことが子猫の頭を直撃したのです。


ドロリと粘着質な液体が流れ、子猫は動かなくなってしまいました。


「おい!お前のせいだぞ!」
「いや!元はと言えばお前が…!」

などと醜い言い合いをしていた時でした。


ーーギロッ


「!」


刺す様な痛みに振り向くと後ろに黒猫…恐らくその子猫の母猫でしょう。動けない子猫の代わりに食べ物を持って来たのか足元には小さな小魚が落ちていました。


猫相手なのに父達は寒気が止まらなかったそうです。…その静かに怒りのこもった目が恐ろしく感じたのです。


「う!うわぁぁぁ!!」


ヤンチャ系男児達は情けなく悲鳴をあげて走り去った。しかし父と友達は動けずにいた。


…可哀想だと感じてしまって。

「…ごめん。止められなくて」


自然に口からそう言葉が出てきたそうです。母猫は変わらずこちらを見ていたのでその視線に耐えられなくなって再び子猫を見ていると僅かに息をしていたのに気付いた父は子猫を抱き抱えて母猫にこう言いました。


「俺たちに任せてくれ!絶対助けるから…!」


母猫はじっとこちらを見ていたが同意する様にその場に座った。


「待ってろ!」


こうして2人は獣医をやっている父の父…私からみると祖父のところに走って行って状況を説明するとすぐ診てくれてなんとか一命を取り留めたそうです。


後日子猫が回復して戻るとあの時と変わらず母猫は座っていました。


「…ごめんな。でももう大丈夫」


子猫は母猫を見ると嬉しそうに鳴いて甘えていたそうです。


母猫はじっと…しかし怒りではない目を向けて子猫を咥えて草むらに消えていきました。


…その後ろ姿が妙に傷だらけなのに消える直前に気付きました。


それから数日後…そのヤンチャ系の男児全員がおかしくなっていました。


夜になると「猫が…猫が…!!」と叫び暴れ出す様になったそうです。


しかも自分ではつけられないであろう場所に引っ掻き傷があったそうです。


もしかしたら俺もあそこで逃げ出してたら…同じ目にあったかもなと笑いながら父は言ってました。

これで終わりです。

猫って賢い生き物ですからね…。

…あっ、私も猫の話、知ってます。

本当ですか?是非、お聞かせ下さい。

――おっと、その前に。


――フッ シュポ
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