太陽と雪
「それ、マズイのよね?」

「ええ。
かなり低い確率ですが、人間に感染する可能性もありますので」

そうなのね……

それでも奈留ちゃんは、何とか診察とトリミングを終えていた。

……その時だった。

「きゃあっ!」

会場に、悲鳴が響き渡った。

「な……何?」

「3番の方の隣の方が……倒れられております。
おそらく、狂犬病ではないかと」

「狂犬病。

症状の度合いによっては、薬の甲斐なく、命を落とすというものです。

そして、人間に感染すると助からない。

たまたま、このコンテストをオレのおふくろが見ていたみたいです。

犬の方は処置をしています」


これも……作戦なの?

城竜二 美崎の。

「葦田 雅志。

貴方はここにいなさい」

現場の混乱に乗じて、警備員である私の弟、麗眞の元に走った。

「麗眞!」

「ああ、姉さんか」

ああ、じゃないわよ。

参加者ナンバーの札を胸につけた椎菜ちゃんを優しく抱き寄せながら言われても……

ホント、警備員らしくない警備員ね。


「ねえ……麗眞。
どう思う?

これも、美崎の作戦なのかしら」

「まあ、そんなところだろ。
狂犬病の女性は、獣医師免許はまだ持っていないらしい」

「ダミー……ってこと?

相変わらず、手口が卑劣ね……城竜二 美崎」

私は、自分で言った台詞に違和感を覚えていた。
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