太陽と雪
矢吹ったら。

いいんじゃないの?

ほんのちょっとくらい、行かないで下さいませ、彩お嬢様。
とかなんか言っても。


「彩お嬢様。
行かれるのは結構です。

しかし、もう夜も遅いですので、明日にしてはいかがですか?」


「そうしてやるわ。
仕方ないから」


「全く……
いつまでもドア付近に貼りついてないで寝ればいいじゃない。

心配されなくても、彩ちゃんは大丈夫よ」


私はそれだけ言って、矢吹を部屋から追い出す。

その様子に、まるで自分の娘を見るような目で優しく微笑んでいるのは、梓さんだ。

「ホントはさ、心配されて嬉しいんじゃないの?
彩」


「梓さん……そんなことないですから!」


「素直になりなさいな。
小学生の男の子みたいよ?

今の貴女。
わざと違う人の話題を出して、気を引こうとしてるの。

藤原さんの話題を出すことで、矢吹さんに妬いてほしいんでしょ?

バレバレよ。

揺れてるのね、2人の男の人の間で」

「美崎も、名前も聞いていないけど、昔会った初恋の人を探しているみたいだし。

私は、彩にも美崎にも幸せになってほしいのよ」


アドバイスを沢山くれた梓さんは、そろそろ寝ると言って、夢の世界に旅立っていった。

でも……今はもう少しだけ……
曖昧な気持ちのままでいたかった。


矢吹に惹かれかけている、彼を1人の男性として意識している、ってこと。

自分で認めたら想いが溢れ出してしまうと思ったから。


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