太陽と雪
奈留ちゃんのいる病院に着くと、金属探知機による厳重検査をくぐり抜ける。

ハッキングによって病室の場所を知っている矢吹について行った。


奈留ちゃんは精神的にも相当参っているみたいで夫の葦田 雅志にケアを任せることにした。

彼に任せておくしか、ないと思っていた。


ふいに、矢吹に聞かれた。


「彩お嬢様。

経営権や土地移行のための書類は、どのようにして用意するのでございますか?」



経営権移行って……

何するつもりよ………


まあ、とにかく。


「宝月家の別荘に何部か置いてあるわよ?」


「ありがとうございます」


しばらくして、矢吹は持ってきた書類を、ほぼ書き上げた状態で病院に戻ってきた。


何をしてきたの?


そう、聞こうと思った。

だけど、聞けなかったんだ。

私のパパとママが、血相を変えて、病室へと入って来たからだ。

「大変だ。

奈留ちゃんを殴った男、自殺を図った。

起訴は難しいな」

「ホント……なの?

奈留ちゃんを殴った男が自殺したって…」


「ああ。
残念ながら……な。

とにかく、もう少し捜査してみるよ」


「頑張りなさいよ?」


「彩もね?」


足早に病室を出ていく両親を見送った後、奈留ちゃんの父親、星哉(せいや)さんが来たところだった。

彼に私たちの提案を話した。


もうすぐ医師団の員から外れる彼に、葦田医院のスタッフを任せられるか、という相談。

葦田 雅志の両親に万一のことがあったとき、星哉さんがその職務を全て引き継ぐこと。

その際、病院名は変えないこと。


無理なお願いではあったが、星哉さんはあっさり了承してくれた。

矢吹の説得のおかげね。

こうすれば、彼が無理やり自分の病院を継ぐ必要はなくなる。

葦田 雅志にかなり感謝された。


「私は指示を送っただけ。

やったのは、全て私の執事だから。

真面目ちゃんだからね?

私のお願いは何でも叶えてくれちゃうのよ」



「もう、夜も遅いです。
早く帰りませんと、お肌に悪いかと」

矢吹にそう言われて、帰ることにした。


「矢吹。

ここ、何階かしら。

……2階ね、分かったわ。

………少しだけ、待ってて?」



私はそう言って、藤原の病室を窓から一目覗いてから、別荘に戻った。










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