太陽と雪
「麗眞坊っちゃま?
どうなさいました?」


「相沢……」


部屋に戻ると、俺の執事である相沢がいた。

「何かございましたか?

麗眞坊ちゃま。

旦那さまに、気に障ることでも言われたのですか。

顔が暗いですよ。

いつもの坊ちゃまらしくありません」

「相沢、ってさ。

叶わない恋って、したことある?」

俺の問いに、意外な言葉を返してきた。

「ございますよ。

間接的には、現在進行形で叶わない恋をしておりますから」

ん?

現在進行系?

どういうこと?

俺の脳内は、クエスチョンマークだらけだ。

「色恋沙汰には聡い麗眞坊ちゃまですから、気付いておられると思っておりました」


相沢は、昔話を俺に話してくれた。

実は相沢は両親に望まれないまま産まれた子供だった。

両親には虐待され、何度も相沢1人だけで警察のお巡りさんのところに行ったという。

小学生に上がる歳に、虐待容疑で両親は逮捕された。

祖父母も亡くなっていて、当てはなかった。

相沢は児童養護施設へ保護され、そのまま預けられたという。
中学生になった時、施設のスタッフの過干渉と過保護振りに嫌気がさし、夜に施設を抜け出したことがあった。
お金もない中学生の行き先など、たかが知れていて、近所の公園だった。

その際、その公園で母の過干渉がうっとおしく、「お前なんかいなくていい」と言われて家を出た小学生の女の子と会った。

夜な夜な家を抜け出して、その子と話をするようになったという。


相沢に、手作りのお守りをくれたその女の子。

相沢は、懐かしそうに呟いた。

「自分も同じものを持っているから、あげる。
寂しいって思ったら、このお守り見て、わたしのこと、思い出して」

その時初めて、人に何かを貰って、とても嬉しかったのが今でも印象深いです。

恥ずかしながら、人生初めての恋だったと自覚しております」

手先は器用だったというその子は。

家でもずっと独りぼっちだったため、それくらいしかやることがなかったのだ、と照れたように笑ったのだという。

「いつか、必ずこのお礼は致します。

僕にとってのお嬢様。

いつか、迎えにいきます。

それまで、待っていてくれますか?」

「もちろん。

約束ね!

忘れないから!

ちゃんと迎えにきてくれたら、わたしのお婿さんにしてあげる!

そしたら、ずーっと一緒にいられるよ」

「そうですね。

ずーっと一緒にいたいです。

約束ですよ」

そう言って、子供らしく小指を絡めたという。

そんなこと、あったの?
子供らしいエピソードだ。

< 161 / 267 >

この作品をシェア

pagetop