太陽と雪
「ううん。
お礼を言うのは、私のほうよ、麗眞くん」

「そう?」

「ええ。

拓実と一緒の勤務になるの嫌だったの。

それに、他の先輩や後輩医師とも。

皆鋭いからね、私がちょっと表情が暗いとか、悩み事があるとかをすぐ見抜いちゃう人たちばっかり。

それで、万が一にも、バレるのが怖かった。

だからこそ他の附属病院への応援ばかり行っていたの。

知り合いがいなければ、やりやすいから。

……それも、今週で止めるわ。

ちゃんとね、拓実がどういう反応するか知らないけど、言ってみようって思ったの。

確かに拓実は私じゃない他の人と浮気してるみたいだけどさ。

まぁ、私がそう思い込んでいるだけで、浮気じゃないかもしれないし。

私が帰るころにはいつもいないの。

それ、ちゃんと言わなかった私の責任でもあるじゃない?

だから、ちゃんと言おうって、決めたの。

幸せそうな麗眞くんと椎菜を見ていると、こんなことで悩んでるの、バカらしくなってきちゃって。

ちゃんと……自分の手で幸せを掴まなきゃなって、そう思わされるのよ」


「じゃあ、私はそろそろ行くわ。

まだ医者としてはまだまだですもの、勉強すること目白押しだし。

じゃあ、いろいろ頑張ってね?

あ、椎菜との挙式の日取り、決まったら早めに教えてね。
シフト、出さなきゃいけないし。

深月も拓実も高沢さんも朱音さんも。

違うフロアで臨床心理士として働く秋山くんもかな。

主要かつ有能なスタッフがその日はごっそり居なくなるから、医局長も頭抱えることになるでしょうけれど。

あ、あと。

ウェディングプランナーなら華恋がいる会社がいいんじゃないかしら」

付録みたいにいろいろ付け足して、どんな重病患者も生きる希望を取り戻すような極上の笑顔を俺に向ける。

理名は先程とは違う軽やかなヒールの音を響かせながら去っていった。

「確かに、理名ちゃんの言う通りね。

貴方たちを見てると、絶対、想い合っていれば幸せになれる気がするってことが、行動や言葉から伝わってくるのよね。

麗眞くんの両親そっくりよ?

私もこんな、いい加減な気持ちじゃダメね」

「朱音さん……」

白衣を脱ぎながら、しみじみと呟いたのは朱音さんだった。

そういえば、朱音さんは高沢と、そして今の夫とどうやって知り合って、どのように関係を深めていったのだろう。

……思えば、高沢のことは、俺自身あまり知らないのだ。

ただ、医者としてかなり優秀、ということだけは分かる。


立ち話もなんだから、どこかに行こうという朱音さん。


「いいんですか?

朱音さん。

俺で。

後で高沢に何か言われそうで怖いですけど」


「いいのよ。

高沢、今、緊急にオペが入ってその手伝いに行ってるのよね。

かなり長丁場だから、2時間はかかるわ」

そうなのか……

俺や姉さんや親父、おふくろを含めた屋敷の人間の体調管理や診察などの仕事しかしないと思っていた。

一応、彼も医者なんだし、こういうこともあるのか……

初めて知ったよ。

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