太陽と雪
病院内の長い廊下を歩いて、エレベーターに乗り込む。

それは俺たちを最上階のレストランへといざなってくれた。

「こんなとこ、あるんですね……」

「大学の附属病院だからね。
儲かるみたいなのよ」


なるほど……

まあ、宝月財閥所有のホテルのレストランと比べると大きくはないけど。

でも、久し振りに庶民の素朴な味の料理が楽しめそうだ。

「こんなとこで大丈夫?

麗眞くん。

料理、お口に合うかしら。

何なら、病院の外の高級イタリアンのお店にしたほうが良いかしら?」

「俺、こう見えて庶民の味のほうが、素朴で好きなんです。

ですから、お気遣いなく、朱音さん」


「そうやって、さりげなく気を遣えるところはお父さんそっくりね」

「ええ。
よく言われます」

ヒレカツ定食、朱音さんは蕎麦定食をそれぞれオーダーした。

その後に、朱音さんはゆっくり、ときどき遠い昔を思い起こすかのように窓の外の景色を横目で見ながら、話し始めた。

「高沢と初めて会ったのは、医学部の研修旅行のときだったわ。

医療ってね、大切なのはチームワークだからそれぞれの専門が違っていても、『医学部生』として全員研修に行かされたの。

先輩も後輩も関係なく、ね。
そのときよ。

私が大学3年、高沢が大学1年生だったわね」

うわ……

何か想像つかないな……

初々しい高沢。

「今みたいな感じじゃなかったわ。

医師に憧れてる高校生、って感じで。
かなりオドオドしていたわ」

うわあ……

ますます想像できないぞ……

朱音さんの話はこうだった。

毎年恒例、春の研修のとき、温泉に浸かりすぎてのぼせた彼女を、高沢が介抱してくれたのだという。

恋人にかなり近い友達、という認識でいた、それは高沢と朱音さんもお互いに。

朱音さんが大学5年生になり、専攻する科を決める時期になったとき、彼女はハッキリ高沢に告げた。

卒業したら、幼馴染みの星哉と結婚するということを。

高沢も、相当ショックを受けたようで、しばらく虚空を見つめていたという。

泣きそうな顔に無理やり笑顔を貼り付けたような高沢の顔。

その顔は、今でも朱音さんの脳裏に焼き付いて離れないのだという。

「で、どうなんです?
朱音さん。

高沢のこと。

今でも、少なからず気があるんですよね?」

核心に、話が及んだ、その時だった。

椎菜の病室からナースコールが発信されたという連絡が、高沢から入ったという。

噂をすれば影、ってやつか。

「料理来たら食べてていいわ!」

彼女は俺にそれだけを告げて、全速力でエレベーターに向かっていった。



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