太陽と雪
「んで?
今度の用件は何なの?
パパ」


「ああ。

風邪はもう大丈夫なのか?

経営学部で名を挙げている泰名大学から依頼が来てるんだ。

ぜひ……彩に経営学についてのミニ講義を頼まれてくれ、と。

そんな依頼だったよ」

そう言われても、日本語としては意味が通っているが、腑に落ちるまで時間がかかった。

私が教えられることなんてあるのかしら。


まあいいわ。


副業である鑑識の仕事にも飽きてきた。

本業は経営コンサルタントなのだ。


「いいわ。
頼まれてあげるわよ。

やっと、本業の仕事が出来るしね?」


私の本業?

経営コンサルタントだ。

経営コンサルタントっていっても会計の仕事やら会議やらに出席するのが主だ。

時たま、こういう方向で、こういう事業に取り組んで行きたいのだが、どう思う?

などという曖昧な相談にも乗ることはある。

副業より何倍も、本業の方が楽しいし、やりがいはある。



「ですが…彩お嬢様。
彩お嬢様はまだ病み上がりでございます。

風邪をこじらせては彩お嬢様が困るだけではありませんか。

身体は資本です。

しっかり治してからの方が宜しいのではないでしょうか」


不安げに言う矢吹に、手を腰に当てながら堂々と言ってやる。


「だいじょーぶよ。

貴方…私をナメてるのかしら?

体力にだけは自信があるのよ。

ピアノやら茶道やら空手やら……いろんな習い事を両立させてきたんだから。

スタミナもあるわよ。

空手はてんで身につかなかったけれど。


「それならよろしいのです。

彩お嬢様がそこまでおっしゃるのでしたら、私は彩お嬢様を信頼致しますよ。

心の底から」


「ありがと」


意外だった。

矢吹の口から、信頼するとかいう言葉が自然に出てきたことが。


ううん。

多分……
素直にありがとうなんて言っていた自分自身に。

きっと一番……驚いてる。


「さあ、彩お嬢様。

そろそろお部屋にお戻りになりませんと。

また熱が上がってしまいます。

私達はここで失礼いたします、旦那さま」


矢吹はそう言って律儀に頭を下げると、パパのいる部屋を出た。
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