太陽と雪
「って、こんなことを話すためだけに来たわけじゃないんだ、大事な用を忘れていた」

「え?
大事な用って……」

村西さんが不意に、真剣な眼差しになったから、つい、目を奪われてしまう。


「十分、気を付けるんだ、麗眞くんも。

その、城竜二ってやつ、他にも何か、仕掛けてくるはずだ。

そんな気がしてならない。

何か変わったことがあったら、蓮太郎づてでも構わない、俺に知らせてくれ」


それだけを言い残して、玄関口に向かう村西さんとやらを見送りに行こうとすると……

玄関のほうからチャイムの音が鳴り響いた。


「あれ?そこにいたの?

村西……カクテル飲ませるついでに、純粋な婚前カップル二人に変なこと吹き込んだんじゃないだろうな」


なぜか、白衣に身を包んだ男性が俺のほうを見ていて、何だか懐かしがっている。


「遅いよ……遠藤……」


そして、その後ろには……

なぜか……姉さんがいた。


「姉さん?」


「ふふ、お待たせして申し訳なかったわ。

安心なさい、ここにいる人たちは全員、パパたちの知り合いだから。

ですよね?遠藤教授」


「教授?」


「あら?麗眞には言ってなかったかしら。

私、こちらにいらっしゃる遠藤教授から、大学院時代に心理学を少々、学んでいたから。

その節は大変、お世話になりました」

うわ、姉さん、よっぽど……遠藤さんの事尊敬してるのな。

普段の態度とえらい違いだ……

「って、そうだよ、こんなことを話にきたのではない。

今、このタイミングでここに来たのは、ある可能性が浮上したからだ。

ある人の協力によって、椎菜ちゃん、だっけ?
君の両親が元のように戻る、という」


「はぁ?
そんな急展開、ありなのかよ」

「そんな方法、あるのでしたら……付いて行かせていただきます……!」

俺の後ろから声をあげたのは椎菜で。

そっか、椎菜、お前の両親だもんな。

俺じゃない、お前が決めることだ。


「俺が嫁入り前の大事な婚約者を1人で行かせるわけないだろ?

俺も行く」


「ふふ。話はまとまったわね。
案内役をよろしく頼みますわ、遠藤教授、村西さん」


姉さんの指示によって、俺と椎菜は車に乗せられる。

その車が、見慣れない洋風の建物のガレージへと入っていく。

車から降りると、スター、クラブ、ダイヤの形を模したブローチのようなものを村西さんから渡される。

「そういえば、2人は見せるのすら初めてだったな」

ドアの前に立つと、戸惑う俺と椎菜を横目に、厳しいセキュリティチェックを受けて扉をくぐる。

「大丈夫だよ、安心して入って来い。

君たちの特徴は、すでに機械に教え込んであるからな。

さっき渡したものをかざしさえすれば、簡単に入れる」

言われた通りに、先程渡されたものを恐る恐る機械にかざすと、ピーという何の変哲もない、無機質な音がした。

「ニンショウ カンリョウ ロック カイジョ シマス」の文字が出る。

すると、扉が横に開いて、俺たちを中に招き入れてくれた。


中に入ると、無数のパソコンと、それに向かう何千人ものスーツの人たちが。

例えるならば、日本の警察署内の道路交通情報センター内、それか、JAXAで宇宙と交信を続ける場所のようだった。

緊張感漂う雰囲気に、ただただ圧倒された。

あっけにとられていると、見知らぬオジサンから声を掛けられた。

「どうも、このエージェントルーム責任者の伊達 徹(いだち とおる)です」


「初めまして……!」

慌ててペコリと頭を下げる。

ははは、と笑うと、そんなに緊張しなくても大丈夫と肩を叩いてくれた。


「親父さんから話は聞いてるかな。

僕は、昔はエンジニアをしていてね。宝月家ではおなじみの盗音機など、さまざまなものを作っていたんだ」

すごいことを言う。

うわ、盗音機って、俺が高校生の頃からお世話になっている機械だ。

開発者の人を初めて見た。

というか、全然、そんな人に見えなかった。

能ある鷹は爪を隠す、ってこのことか。

どこからどう見ても、気前のいいおじさんにしか見えない。

なんて思っていると、電光掲示板に”作戦Pの関係者は会議室に向かうこと”
とある。


「僕たちのことだね。

彼女たちも、裁判を終えて来たようだし……行こうか」

俺たちに付いてくるように促す。

作戦?
何の事なんだ……?



一体何のことなのだろう。


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