太陽と雪
いつまでもここにいては、椎菜が捜すかもしれない。

公園に向かうか。

そう思った矢先、後ろから急に温もりに包まれた。

ようやく秋めいてきて、少し肌寒いからなのだろうか。

手の体温は少し下がっているようだ。

「麗眞……

貴方って人は。

ズルい婚約者ね」

「そう?

手、冷えてる。

温めてやるから、久しぶりに観覧車にでも乗りながら、椎菜からの話とやらを聞こうかな」

「そうするー!

高校生の時以来だなぁ、あの観覧車」

椎菜と2人で学生の時に訪れたのは、ちょうど夕日と月が交代する時間だった。

それも夜景は綺麗だったが、昼に乗るのも一興だ。

チケットを買い、俺たちと同年代くらいの男性に見送られ、ゴンドラに乗った。

ゴンドラでは隣合って座った。

「ごめん!麗眞!

言ってなくて、ごめんね。

言えなかったの。

麗眞との子供を妊娠した、なんて。

私があの京都旅行の日、ピル飲み忘れたせいもあるし。

それに、麗眞は宝月のお家を継ぐ権利がある人でしょ?

婚約者、という肩書がその当時から、
私にあったとしても、それでも。

学生で、かつ未成年で妊娠なんて。

とても言えなかった。

麗眞の両親にも、お姉さんにも、迷惑かけちゃうし。

私が麗眞の将来の可能性を潰しちゃいけないって思った。

だから、直接は言えなくて。

覚悟が出来たときに見てほしいな、と思ったから、日記には書いたけど。

あれ、いつの間に読んでくれてたの?」

「俺も、椎菜に謝らなきゃな。

申し訳なかったと思ってる。

ずっと、10年近くも、椎菜だけに十字架を背負わせたままで……

俺だけは何にも知らずに平和に過ごしててさ。

毎年、さっきの寺に来てたんだろ。

お供え物が入り切らないから、って棚に纏まってたよ。

……椎菜。

今年からは、俺も背負うからさ。

何なら、もし、次に椎菜が俺との子供をお腹に宿してくれたら、その時は。

ちゃんと、報告してあげて、あの子の分まで、愛情注いで育てていこうぜ。

出来るよ、俺と椎菜なら。

椎菜は、多分俺に言うべきか言わないべきか迷いに迷ってたんだろ。

ずっと一人で抱え込んで。

そのストレスが大きすぎたのも、流産した原因なんだろう、おそらくは。

椎菜の執事の桜木さんも、俺の執事の相沢も。

俺の姉さんも、俺の両親も。

椎菜の両親も。

大切な俺たちの同級生かつ親友たちも。

皆支えてくれるよ。

もう少し、周りを頼ることを少しずつ覚えたほうがいいと思うぜ、椎菜」

拙いながらも、精一杯の自分の気持ちを言葉にして紡いだ。

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