太陽と雪
「あのバカもね、同じように後悔していたわよ。
カナダから、私に泣きながら電話まで掛けてきたくらいだし。
好きなら何言われても、無理やりにでも引き留めろっつーの。
……まったくもう。
あ、安心してね。
椎菜ちゃん、貴女がウチのバカでヘタレな愚弟の子供を身籠ったと思ったらすぐに流産になったこと。
カナダに顔を見せに行く3週間くらい前まで入院していたこと。
そのどちらも、麗眞には伝えていないから。
今もまだ知らないままでしょうね。
さっき話してくれた日記とやらを見ない限りはね。
それにしても、高校の頃は麗眞、貴女に対してかなり過保護だったわよね。
貴女を散々睡眠不足にしていたみたいだし。
強引にでも引き留めるのが当然なのよ。
それなのにそれをやらないんだもの。
後悔先に立たず、ってこのことよ。
あの後の麗眞、屋敷内で色んなものに当たり散らして、珍しく温厚で滅多に怒らないパパから雷を落とされてたわ。
『誰彼構わず当たり散らして楽しいか!
自分の感情くらいコントロールしろ!
自分の家とはいえ、自分の部屋以外は公共の場だ!
このことは幼少期から耳にタコが出来るほど言い聞かせたはずだ!
公共の場で物や人に当たり散らす乱暴な奴の下になんて、人はついてこないぞ!
わかってるのか!
自分の感情をコントロールできない奴は、次期当主の資格はないどころか、宝月の人間として失格だ!
家を出ていけ』ってね。
あのね、椎菜ちゃん。
それが本心だったとしても、一度口に出した言葉は、簡単に取り消せないのよ。
口に出す前に、その言葉を口に出したらその後に、どんな展開が考えられるか?
一度シミュレーションしてみることをオススメするわ。
苦手なようなら、トレーニング相手くらいならなってあげる。
あとは、もう少し周囲の人を頼ることね。
貴女の周囲には、たくさんご友人がいたはずでしょう?
心理学に長けた友人も、恋愛経験に長けた友人もとにかくたくさん。
貴方たち2人を見てるとね、歯痒くて仕方がないわ。
どこかでよりを戻せるようにしてあげられれば一番良いのだけれど。
ごめんなさいね。
恋愛の経験は、私なんかより椎菜ちゃんの方が断然上だから、尽力できそうにないわ」
「いいんです。
彩さん、ありがとうございます。
私に足りないもの、少しわかった気がします。
あの、麗眞の近況とか、いろいろ教えていただいて、ありがとうございます」
椎菜ちゃんの顔に太陽みたいな笑みが戻った。
それで良しとしよう。
ニコニコした雰囲気から一転、椎菜ちゃんが私をまっすぐ見据える。
「すみません、彩さん。
謝らないと、と思ってました。
私、昨日、大浴場から部屋に戻る帰りに彩さんが転んだとこたまたま見ちゃったんです。
あの、あれ……藤原さんでしたよね、転んだ彩さんを助けてくれたの。
お亡くなりになった、と聞いていたのですが生きていらしたんですね」
「そ……そんな!」
椎菜ちゃんの言葉を信じたら自分が冷静でいられなくなる。
そんな予感がして、怖かった。
今も、熱いくらいのお風呂に浸かっているはずなのに、全身から冷や汗が伝ってきている。
背筋も心なしかゾクゾクするし……
「だって……彩さんのこと、"彩お嬢様"って呼んでいました。
『相変わらずでございますね』って言っていましたし。
藤原さんで間違いないはずです」
確かに、困った顔のときに眉尻が下がる癖も何ら変わっていなかった。
あの……低めの声色も変わりなかった。
だけど……何でかな?
声に違和感があった。
それに……私を助けてくれたときも……
少し。
ほんの少しだけど。
息切れしていた気がした。
時々、苦しそうに痰が絡む咳をするところもあの時のままだ。
ねぇ……藤原?
貴方は何で……美崎の執事なんかしているの?
理由があるのなら……教えてくれてもいいじゃない……
自分が会ったのは藤原じゃないかってことが、着替える間も頭から離れてくれなかった。
カナダから、私に泣きながら電話まで掛けてきたくらいだし。
好きなら何言われても、無理やりにでも引き留めろっつーの。
……まったくもう。
あ、安心してね。
椎菜ちゃん、貴女がウチのバカでヘタレな愚弟の子供を身籠ったと思ったらすぐに流産になったこと。
カナダに顔を見せに行く3週間くらい前まで入院していたこと。
そのどちらも、麗眞には伝えていないから。
今もまだ知らないままでしょうね。
さっき話してくれた日記とやらを見ない限りはね。
それにしても、高校の頃は麗眞、貴女に対してかなり過保護だったわよね。
貴女を散々睡眠不足にしていたみたいだし。
強引にでも引き留めるのが当然なのよ。
それなのにそれをやらないんだもの。
後悔先に立たず、ってこのことよ。
あの後の麗眞、屋敷内で色んなものに当たり散らして、珍しく温厚で滅多に怒らないパパから雷を落とされてたわ。
『誰彼構わず当たり散らして楽しいか!
自分の感情くらいコントロールしろ!
自分の家とはいえ、自分の部屋以外は公共の場だ!
このことは幼少期から耳にタコが出来るほど言い聞かせたはずだ!
公共の場で物や人に当たり散らす乱暴な奴の下になんて、人はついてこないぞ!
わかってるのか!
自分の感情をコントロールできない奴は、次期当主の資格はないどころか、宝月の人間として失格だ!
家を出ていけ』ってね。
あのね、椎菜ちゃん。
それが本心だったとしても、一度口に出した言葉は、簡単に取り消せないのよ。
口に出す前に、その言葉を口に出したらその後に、どんな展開が考えられるか?
一度シミュレーションしてみることをオススメするわ。
苦手なようなら、トレーニング相手くらいならなってあげる。
あとは、もう少し周囲の人を頼ることね。
貴女の周囲には、たくさんご友人がいたはずでしょう?
心理学に長けた友人も、恋愛経験に長けた友人もとにかくたくさん。
貴方たち2人を見てるとね、歯痒くて仕方がないわ。
どこかでよりを戻せるようにしてあげられれば一番良いのだけれど。
ごめんなさいね。
恋愛の経験は、私なんかより椎菜ちゃんの方が断然上だから、尽力できそうにないわ」
「いいんです。
彩さん、ありがとうございます。
私に足りないもの、少しわかった気がします。
あの、麗眞の近況とか、いろいろ教えていただいて、ありがとうございます」
椎菜ちゃんの顔に太陽みたいな笑みが戻った。
それで良しとしよう。
ニコニコした雰囲気から一転、椎菜ちゃんが私をまっすぐ見据える。
「すみません、彩さん。
謝らないと、と思ってました。
私、昨日、大浴場から部屋に戻る帰りに彩さんが転んだとこたまたま見ちゃったんです。
あの、あれ……藤原さんでしたよね、転んだ彩さんを助けてくれたの。
お亡くなりになった、と聞いていたのですが生きていらしたんですね」
「そ……そんな!」
椎菜ちゃんの言葉を信じたら自分が冷静でいられなくなる。
そんな予感がして、怖かった。
今も、熱いくらいのお風呂に浸かっているはずなのに、全身から冷や汗が伝ってきている。
背筋も心なしかゾクゾクするし……
「だって……彩さんのこと、"彩お嬢様"って呼んでいました。
『相変わらずでございますね』って言っていましたし。
藤原さんで間違いないはずです」
確かに、困った顔のときに眉尻が下がる癖も何ら変わっていなかった。
あの……低めの声色も変わりなかった。
だけど……何でかな?
声に違和感があった。
それに……私を助けてくれたときも……
少し。
ほんの少しだけど。
息切れしていた気がした。
時々、苦しそうに痰が絡む咳をするところもあの時のままだ。
ねぇ……藤原?
貴方は何で……美崎の執事なんかしているの?
理由があるのなら……教えてくれてもいいじゃない……
自分が会ったのは藤原じゃないかってことが、着替える間も頭から離れてくれなかった。