囚われジョーカー【完】
気まずそうに視線を逸らした三浦さん。
それは、もう、終わりってことですよね…?
「信じろ」なんて聞きたくなかった。「麻乃」という、あの女性に酷く嫉妬して。「麻乃」さんに向ける笑顔が羨ましく感じると同時、自分が惨めだった。
あの言葉は、私の願望だったということにしよう。あれは、私の叶うことない愚かな夢だったのだ。
「さようなら、」
「三浦さん。」
玄関から廊下に出たため。バタン、背後で重たく閉まったドアの音がやけに廊下に響き渡りそれに伴って。
ふわり、香ったシトラスと濃い煙草の香りに不覚にも涙腺がゆるむ。
「(…あー…、どうしよう。)」
私が着ているシャツや、持っているバッグ、私の全てが゙三浦さん゙を主張している。
それは、香りとなって。
忘れたくても、忘れられない。あの香水ショップのお兄さんが言ってた言葉の意味、今、よく分かる。
―――忘れたいと思うことほど案外、自分が一番忘れたくないこと。
三浦さん、好きです。