。*雨色恋愛【短編集】*。(完)

-あたしの背中に-

「碧…本当に大丈夫だな?」

龍さんが、あたしにそう優しく話しかけてく

れる。

「龍さん、銀龍、嘗めないでくださいよ」

「…そうだな」

「俺…龍さんになら、安心して背中任せられ

ます」

「はっ…そうか」

少し笑いながら…龍さんは頷いた。

ほんとに…

あたしは、今までずっと、誰にも背中を巻か

せられなくて、一人で喧嘩してた。

背中に相手は回らせないし、そもそも、女の

あたしと殺ろうって奴はいなかった。

…龍さんも、あたしが男だからなのかな。

…少し、ショックかも。

まぁ、勝手に落ち込んでるだけだけど。

とにかく、今からは隣町のグループとの喧嘩

に集中しなきゃ。

「向こうのチームは、龍月を潰そうとしてい

る。そのために、うちの学校の奴らを脅して

んだ」

…卑怯な手、使いやがって。

「俺らは、学校を守らなきゃいけねぇ」

龍さんが、遠くを見て言った。

その目は、すごく真剣で。

あたしも頑張らなきゃって、自然に思えてき

た。

…初めてだと思う。

あたしが、喧嘩を頑張ろう、なんて思ったこ

と。

誰かのために…なんて、喧嘩できない。

…龍さんは、本当にすごい。

「…行くぞ」

「はい」

あたしが今から行くのは、頻繁にうちの学校

の生徒がカツアゲや、暴行を受けてる所。

…絶対に、奴らくるはず。

「…あいつらだ」

龍さんの顔が、どんどん怖くなっていく。

強い顔になっていく。

…これが、金龍なんだ。

「…龍さん」

「あ?」

「俺、まじで頑張りますから…」

だから、あたしの…

「俺の背中…任せますよ?」

「ふっ…バーカ。自分の総長、信じろよ」

頭を小突かれて、笑われた。

「お~、楢崎。久しぶりだな」

そう言って、龍さんに話しかけてきた男。

「……花村≪はなむら≫」

「俺だぜ~。龍月潰そうとしてんの~」

…知り合い?

「…そうかよ」

「龍さん?」

「こいつ…俺の悪ダチ」

「ダチなんて言うなよ~。敵だぜ?俺は」

笑いながら言う、花村って奴。

「…悪ィ、碧。この喧嘩の種撒いたの、俺か

も」

「…龍さん」

「しかもよ~。その一緒にいる奴、お前の仲

間かぁ?弱そうな面だなっ」

はははっと、花村は、花村の仲間と笑い合っ

た。

「花村、てめぇ黙れ」

「あぁ?」

「碧嘗めると、痛い目見るぞ」

「はぁ?」

ちょっと…

めっちゃキレてるよ…

「龍さん、いいです。俺、言われ慣れてるん

で」

「…けど」

「その代わり…」

龍さんの気持ちは嬉しいから。

「てめぇら、外なんか歩けねぇ面にしてやっ

から」

…あたし、バカにされるの嫌なんだよね。

それなりのこと…覚悟しとけよ。

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