。*雨色恋愛【短編集】*。(完)
「今日でクランクイン目指すぞ~!!」

「はいっ」

今日、5、6時間やればきっとクランクイン

できると思う。

今日の山場は…

やっぱり、ラストのキスシーンかな。

どうこうあるわけじゃないけど、なんか…

やっぱり、緊張する。

だって、あたしの相手は、光輝クンだよ?

緊張…するよね。

『剣人、がんばれ!!』

今のシーンは、剣人が足が使えなくなるのを

覚悟した上での、後半のところ。

あたしも、梨華として頑張って応援する。

…PK戦の時。

『剣人、がんばれ!!』

あたしの精一杯の応援。

同じ言葉を、何度も繰り返すこのセリフは、

感情を込めるのが難しい。

剣人のゴールが決まって、梨華に抱きつくシ

ーン。

『梨華、勝った!!』

無邪気な剣人の映像に、それに合わせて出し

た、光輝クンの声に聞き惚れる。

「カットッ」

「……やっぱ、好き」

そう呟いて休憩。

…そういえば。

あたし、今までにNGってほとんどなかった気

がする。

…このまま、いけるかな。

休憩の時にいつも飲んでいる、オレンジジュ

ース。

なんか、喉が潤う気がする。

「休憩時間に飲むのが、オレンジジュースな

のかよ」

「こっ…光輝クン!?」

「普通、紅茶とか飲むだろ」

「だって、オレンジジュース飲んでると落ち

着くんだもん…」

「ふっ…お前らしいわっ」

笑いすぎでしょ…

最近、あたしをバカにしてるだけかもしれな

いけど、光輝クンがよく笑うようになった気

がする。

「じゃあっ、光輝クンはなに飲んでるの?紅

茶?」

「レモンティーだけど?」

「れっ…レモンティー?」

「声優は、休憩時間に温かい物を飲む」

「えっ?」

「これ常識」

「嘘っ。知らなかった」

「今日で最後だな」

「直せないよぉ」

「まっ、それを突き通すのもありだろ」

「そうだよね!!そうしよっ」

「始めまーす」

「あっ、もう始まるの?」

「おいっ、早くしろよ」

またバカにされてるように言われた。

けど…なんか悪い気がしないのなぜ?


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