あやとり

階段を軽やかに下りて、私がいるほうと逆方向に甲斐君は歩いていく。

時々振り返り、階段の上で甲斐君を見送っている優ちゃんに手を振って、そしてまた歩いていく。

私の視界から甲斐君が消えて、優ちゃんが振っていた手を下ろし、夜空を見上げた。

その時、いきなり電信柱の影から男が走り出した。

びっくりしながらも、その男が向かっている先が優ちゃんのアパートだと気付いた私は、一瞬足が竦んだ。

男が手にロープのようなものを持っているのを見てしまった。

優ちゃんを見ると彼女はまだ気付かず、呑気に星空を眺めている。

どうしよう……。

でも、足が動かない。


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