あやとり

よく見ると、優ちゃんの左手が血に染まっていた。

微かに救急車の音が耳に届いてくる。

その音が大きくなってきたと思ったときには、音が止み、階段を駆け上ってくる音がした。

救急隊員たちが、優ちゃんを担架に載せる。

「ご家族の方ですか?」

「は、はい。妹です。あの、姉は」

「ご本人から、腹部を刺されたとの通報がありました」

腹部?

刺された?

なんで?

誰に?

まさかあの男が、栗木が?

「あ、そんな……。姉のお腹の中には赤ちゃんがいるんです!」

「聞いています。救急車にご同行してくださいますか?」

「は、はい」

救急車には酸素マスクを付けられた優ちゃんが横たわっていた。

何が起こったというのだろう。

怖くなって悲しくなって涙が止まらなかった。


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