あやとり


昨日、直哉に電話をしてみた。

一本調子で言葉を口にする音声メッセージは、直哉がとうとう、今までの携帯電話を手放したことを伝えていた。


アパートの階段を一段ずつゆっくりと登る。

一言目はなんと切り出そう。

俯いてまた一段昇る。

階段の途中から、点々と血液のような滴の線があるのが視界に入ってきた。

それは階段の上へと続いていた。

辿るように上がっていくと、それらは私を優ちゃんの部屋の玄関の前へ導いた。

「優ちゃん?」

嫌な予感が拭えない。

恐る恐る玄関ドアに手を掛けると、ドアに鍵が掛かっていないことが分かった。

怯える心を制し、思い切ってドアを開ける。

玄関先で倒れている優ちゃんが目に映った。

「優ちゃん?」

右手は携帯電話を握り締め、左手はお腹に当てられたまま、気を失っている。怖くて震えが来る。

いったいどうしたの?


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