今宵は天使と輪舞曲を。

§ 03***招かれざる客人。




 朝焼けの、濡れた露草の匂いがする。例によって一時的に雇った四人掛け用馬車から下りたメレディスは自分を落ち着かせるため、ひとつ深呼吸した。

 デボネ家一行は午前中のまだ太陽が頭上に差しかかるよりずっと前にブラフマン邸を到着した。
 以前、初めてブラフマン邸を訪れた時は夜だったから、外観は厳格な王族の城を思わせたが、こうして日中見て見ると、どこまでも続く絨毯のように広がる緑の芝生が乳白色の屋敷を包み込む様は優しく、落ち着きのある面持ちだった。

 けれど自分はけっして遊びにブラフマン家に来たわけではない。
 況してやブラフマン家の次男に会うためでもない。デボネ家の付き人として仕方なくやって来ただけだ。目前に佇む屋敷を見つめるメレディスは、自分にそう言い聞かせ、宥めた。


「ようこそおいでくださいました。デボネ夫人。ミス・デボネ。ミス・トスカ、詳細は旦那様から伺っております。お待ちしておりました」
「まずは寝室のご案内をいたします。どうぞこちらへ」

 門番に通され、庭園に入ったメレディスたち一行は、例に則ってすでに待ち構えていた燕尾服を身に纏った白髪交じりの家令(ハウス・スチュワート)による歓迎の挨拶の後、ブラフマン家のメイドが続けてそう言った。

 四人はメイドに案内されるがまま進んだ。長い廊下の天井に連なる美しいシャンデリアは相変わらずだが、照明自らが光を放っているのではなく、壁に埋め込まれた窓から入る陽光に反射していた。その様は庭園から外観を見た時と同じく、あたたかみであったり優しさであるように思えた。


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