今宵は天使と輪舞曲を。

 たしかに、あの時。キス以上のことをしようと思えば、彼の手を持ってすれば力尽くでどうにでもなる。それなのに、彼は欲望に支配されず、無理強いにメレディスの純潔を奪わなかった。それはメレディスを思ってくれているからこそなのかもしれない。

 それに馬油にしたってそうだ。彼はすすり泣くメレディスを煩わしいとも思わず、懐抱してくれた。
 男性とはもっと短気で感情的な女性を嫌う傾向にあるのではないのか。

 けれど少なくとも、ラファエル・ブラフマンは慰めてくれた。彼は寛容な男性だ。ルイス・ピッチャーとはまるで違う気がする。

 仮にもし、湖にいたのがラファエルではなく傲慢で欲望に塗れた彼であれば、ふたりきりだと分かった時点で世間体を気にする必要もないのだから自分の思うがまま欲望を解放し、メレディスに結婚を迫るはずだ。しかし実際に湖にいたのはラファエル・ブラフマンであってルイス・ピッチャーではない。


 わたしの認識が間違っていたのかしら。本当にこの見解が正しいの?

「わからないわ。でもわたしには何もないのよ」
 メレディスは素直に首を振った。
「いいえ、メレディス。貴女は自分の価値をわかっていないのよ」


 視線はラファエルが手当てしてくれた両手に落ちる。キャロラインは困惑しているメレディスを慰めるかのように、丸まった背に手を回した。


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