今宵は天使と輪舞曲を。

§ 12***彼女と馬と花飾りの少女と。




 今日の湖の色はスカイブルーだ。湖は透き通るような空の青を写し出していた。風はまだほんの少し冷たいが爽やかな春の日差しはあたたかで、まるで今の自分の気持ちを表現しているようだとラファエルは思った。

 どうやら屋敷を出るのが早すぎたようだ。ポケットから懐中時計を取り出し見れば、待ち合わせ時刻より三〇分も早い。

 約束の時間が待ちきれず出てきてしまったのが、おそらく彼女が到着するのは約束していた時刻よりも大幅に過ぎるだろうと覚悟していた。
 それというのも、女性という生き物は男よりもずっと身支度に時間がかかるからだ。世の貴族の女性とは皆、外見や世間体を気にするそういう生き物だ。だからメレディスもまた、彼女たちと同じに違いない。

 ラファエルは誰かのために大切な予定を狂わされることが嫌いだった。それは主人として、経営者としてそれは当然なマナーであり、一分でも遅刻してしまえば相手の信頼を損ね、契約破棄にもなりかねるのだ。
 しかし、世間の女性たちは違う。妹にしても母親にしても、なぜ女性は時間が守られないのかと父に愚痴をこぼしたことがある。父親は苦笑を漏らし、女性とはそういう生き物だからと受け流していた。
 父親や結婚した男性たちならともかく、ラファエル自身は一生をかけても理解しがたいことだと常々思っていた――が、今はどうだろう。おかしなことに、メレディスを待つことに短気を起こしていない自分がいるのだ。


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