今宵は天使と輪舞曲を。

 さて、今日の彼女はいったいどんな反応を見せてくれるのだろうか。ラファエルは目を細め、時期にやって来るだろうプラチナブロンドの女性を今か今かと待っていた。

 時刻は約束していた二時を過ぎようとしている。ラファエルは草を食べている雄馬から視線をずらし、両親が暮らしている屋敷があるだろう方へ向けた。すると、ひとりの人間が近づいてくる足音が聞こえた。
 連れてきた馬もまた、両耳をひくつかせ、やって来た人間を察知している。ラファエルがさらに視線を上げると、驚いたことに彼女だった。メレディス・トスカは時間ぴったりに現れたのだ。それも煌びやかな、まるで舞踏会に向かうような仰々しい姿ではなく、乗馬に相応しい服装で、だ。貴婦人が好む装飾品も香水も、何ひとつつけていない、とてもシンプルな格好だった。
 それにしても彼女はどんな服装も美しく着こなす。

 太陽にも愛されたブロンドはまるで麦畑を思わせる。後れ毛が風に遊ばれて棚引いている。

「ごめんなさい。少し遅れてしまったわ」

 急ぎ足で来てくれたのか、ほんの少し息が乱れているのが窺えた。

「いや、時間ぴったりだよ」
 ラファエルが返事をすれば、彼女は頬を赤らめた。照れた姿を隠すためか、連れてきた馬に視線を向ける。

「綺麗な栗毛の子ね」
 彼女はうっとりとそう言うと、草を食べている馬を怯えさせないよう、真横からゆっくりと近づいた。

「カインっていうんだ」
「……カイン」
 ラファエルが馬の名前を教えてやれば、彼女の唇がその名前を囁く。



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