今宵は天使と輪舞曲を。

「メレディス、今はまだダメだ」
 それはとても苦しそうな声だった。
 ラファエルはそう口にしたが、いったい何がダメだというのだろう。良くは分からないが、あらためてそう言われると、彼が言うことが正しい気がする。この先に進んではいけないような気がした。

 ラファエルは力強い腕ですすり泣くメレディスを抱きしめる。
 この腕がいつだって自分をあたたかくしてくれる。メレディスは彼の胸に頬を寄せ、ため息を漏らした。


「そういう仕草がね――もっと君が欲しくなるんだ……」

 どういうことかと首を傾げて見上げると、普段はエメラルドの瞳が深緑へと変化しているのに気がついた。


「君があまりにも魅力的だから困る」
 そう言うと、彼はメレディスの後頭部と腰に腕を回し、メレディスの手袋を抜き取った。コンプレックスだった彼女の穢らわしい手が露わになると、メレディスはひゅっと息を吸い込んだ。

 けれども彼はメレディスの腕から指先にかけて唇でなぞっただけだ。多くの男性が口にするだろう醜いという罵りもない。それがメレディスの瞼を熱くさせる。

 彼は自分の穢れた姿を目にしても逃げ出さない。
 そう実感すると、目に涙が溜まっていく……。視界が歪み、目の前が見えなくなる。

「泣かないでくれ。ぼくは君が悲しむ姿を見たくはないんだ」

 彼の言葉とは裏腹に、メレディスの口からしゃくりが飛び出した。メレディスが涙を流せば、力強い腕が包み込んでくれる。

 メレディスは今日で何度目になるだろう涙を流し、たくましい腕の中で思う存分泣いた。



《蜜事・完》
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