今宵は天使と輪舞曲を。

「そうね、女性に興味を持たなかった貴方が入れ込む相手を見つけられたのはとても喜ばしいことだと思うわ。でもダメよ。だってあの娘は――」
「没落貴族だから?」
 皆まで言わせるかとラファエルが口を開くと、彼女はまた首を振った。

「――いいえ、デボネ家の人間だからよ」
「しかし彼女はトスカ家の人間でデボネじゃない」
「同じよ」
 レニアは額に手を当て、苦しそうに続けた。
「デボネは資産を運営したり家庭を守ることに無頓着なのよ。だから没落してしまった。過去だけではないわ、この屋敷に滞在している今もそうよ。他人の資産を我が物顔に使って楽しんでいるわ。人間というのは強欲よ。今まで手に入らなかった大金が突然目の前に現れればいったいどうなると思う? デボネ家の人間と同じよ。あの娘も今にそうなるわ」
「――ならないかもしれない」
 グランは口を挟んだ。レニアは長男に黙ってほしかった。彼をひと睨みする。
「いい娘じゃないか。馬も好きだし、第一、馬も彼女に懐いている。動物に好かれる人間に悪い人はいない。それにラファエルは馬が大好きだ」
「ラファエルも貴方と同じで家畜用の馬だけでなく競馬に出場させるサラブレッドを育てているくらいにも――」
 グランに代わり、モーリスが口を開くとレニアは深いため息をつきながら眉間に皺を寄せ、首を振った。
「懐いているのは馬だけじゃない。キャロラインも彼女に懐いているよ」
 グランは口元を歪め、にやにやしながら話した。どうやら兄はこの展開が面白くてたまらないらしい。


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