雨時々、恋模様。
オープニング

雨が降る。
いい音が響くけれど、髪が広がるのが、雨の悪いところだ。
ましては、自分の名前に「雨」の字がつくと、あまり良い印象を持つことはできない。


桐原雨月


それがわたしの名前だった。
名前が目立ってしまい、小学校の頃からのコンプレックス。
初めて出会った人には絶対読めない名前、とまで称されたことがある。
…しかも、好きだった人に。


生まれた日が、夜で、雨が降ってたのに、月が見えていたらしく、それが由来。
どこかへ消えた母が、そう言っていた。
わたしが中学生のとき、他の男の子供を身ごもり、逃げた母が。


わたしの人生は、不本意にも名前と同じで、雨ばかり降り続く、波乱万丈で、地は固まらない。
まだ高校生だから大丈夫さ、なんて言われたくも、思いたくもない。
どうせ人間、10歳を越えたときの状況で一生を過ごさなきゃならないのよ。


高校の校門をくぐりながら、わたしは立ち止まった。
傘を叩く雨音が耳に障る。
だけど何故だか、立ち止まって振り返った。
無意識のままに。




--ザッ、と音をたてて、風が通り抜けただけだったけど。












その日が、私の雨を止ませてくれることになるなんて、知らずに。
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