フルーツ ドロップス
気付いたら、そう言っていた。
彼は、驚いて、俺の顔を見た。
 「…無理に、好きにならなくても、”俺の中にも、また違う‘俺‘が居るんだ”ってこと、森川君自身が分かってるなら、それでいいと思い、ます。」
 「……」
 「森川君は、病気を隠さなきゃいけない事だと思ってるけど、別に皆に気をかけることなんて迷惑じゃないと思うし。……ありのままの‘森川君‘で居れれば、それでいいんじゃないかと俺は思い、ます。」
そう言うと、彼は「ブハっ……!!」っと吐き出し、笑い出した。
 「あっはっはっは!!そんな事言われたの、初めてだわ。……そうだよな、無理に好きにならなくても、‘俺‘は俺だもんな。」
そう言うと、彼はベットから起き上がった。
 「ちょ…まだ駄目なんじゃ…」
 「いいんだよ。もう治った。」
そう言って笑う。
二カッと笑う彼の笑顔は、治った証拠のように見えた。
 「唐沢、やるよ。」
そう言って、俺の手に何かを乗せた。
手渡されたものは、小さいビスケットだった。
……ボロボロの。
 「ボロボロで悪いけど、お礼だ。受け取っとけ。」
手に乗ったまま、「ありがとう。」とお礼を言った。
そう言うと、走って保健室の出入り口まで行ってしまった。
…と、思ったら、振り返った。
 「下の名前、聞いてなかったな、唐沢…何?」
 「‘千空‘千に、空って書く。」
 「そ、んじゃ、千空!またな。」
今度こそ、彼は走っていってしまった。
手に残る、ボロボロのビスケットを見た。
 「……ほんと、ボロボロ。」
新しい友人。
ボロボロのビスケット。

 「…でも、おいしい。」
ビスケットの味は、
ボロボロでも、美味しかった。

外は、今にも雨が降りそうだったけど、
俺の気持ち的な部分では、
晴天だと思う。
< 18 / 24 >

この作品をシェア

pagetop