大江戸妖怪物語
「それじゃあ、ゆっくりしてってね!」
「はい♡ありがとうございます~」
僕たちは座布団に座り込む。
「で、僕の家に用事ってなんのこと?」
「あ、うん!その事なんだけど。ほら、前に風呂敷包みを渡したじゃない。あれ、ちょっとの間、保管してもらっていいかしら?」
「保管?眸、持って帰らないの?」
「本当は持って帰ろうとしてたんだけど、最近あの托鉢僧の人を見かけないのよ。私が今借りてる家はここから距離あるし・・・。できれば預かって欲しいのよ。お願い!」
眸は両手を前に合わせて懇願してきた。
「図々しいわ。まったく」
雪華は吐き捨てるように言った。
「まぁ、断る理由もないからいいけどさ。中、見ていい?何が入っているか気になるし」
「えぇ?!なに、神門ってば、そういう趣味!見ちゃダメよ、見ちゃめ!」
風呂敷包みを抱きしめながら眸は言った。
「・・・まぁ、止めはしないけどね。ククク」
怪しげな笑いを秘めた眸。その横顔が妖怪に見えたのは僕だけだったのだろうか。
「・・・まぁ、用事はこれだけだから帰るわ♪さよならー」
眸は立ち上がり、手を振りながら、玄関を出て去っていった。
「・・・これどうしよう」
「構わん。蔵にでもぶち込んでおけ。そして埃まみれにでもしてくれ」
雪華は我関せず、の様子でプイッとそっぽを向いた。
「うーん、じゃあ、居間の端っこにおいておくね」
僕は棚の端に置いた。
「暇すぎる。甘深楽にでも連れていけ」
「えぇッ?!今?頭が痛いし・・・」
僕は痛がる素振りをする。
「まぁいいが。私一人で言ってこよう。食い逃げしてお前に罪を着せてやる」
「・・・どうやって?」
「すべてお前に命令されたとでも言おう」
「・・・わかった。ついてくよ」
僕はため息混じりに応えた。マジで頭痛いんだけど・・・。
まあ、甘いもの食べたら二日酔いも良くなるかもしれないし。医学的証明はないが。
「イライラしたら甘いものと決めてある」
「たしかに雪華はイライラしてるよね・・・」
「当たり前だ。大嫌いな奴になぜ会わなくてはならんのだ。これが怨憎会苦というものなのか」
「まぁまあ、落ち着いてよ雪華。今日は僕が奢るから」
「無論、そのつもりだが」
「・・・」
甘深楽に到着し、久しぶりにアズ姐と会った。
「あらら。神門くん久しぶり、それに雪華ちゃんも!」
「アズ姐久しぶり」
「お久しぶりです」
雪華はキチンと挨拶した。
「最近来ないからどうしたものかと思ってたわ」
「あぁ・・・。まあ色々ね。昨日も花火大会の手伝いをして・・・」
「お前は金槌で指怪我してずっと寝込んでいたろ」
「ちょ・・・雪華ぁぁぁ」
それだけははずかしいから言わないで!アズ姐に馬鹿にされるぅ!
「大丈夫?あら、確かに血豆になってるわね。・・・右手も金槌で?」
「コイツの右手の怪我は肉刺が潰れただけです」
代わりに雪華が説明をしてくれた。
「神門くんてば災難・・・」
「いえいえ。なんのこれしき!アズ姐、ぜんざいを二つ頼むよ!」
「はいはい。じゃあ座って待っててね」
僕たちは近くの椅子に腰掛ける。
しばらくするとふたつのぜんざいがトレーに乗せられ、届けられた。
「いただきます」
「うまそう!いっただっきまぁす!」
僕は大きい白玉を口に運んだ。
「神門くんは花火大会に行く相手って決まってるの?」
「うん。一応雪華と」
「一応とは何だ一応とは」
雪華が僕を睨んでくる。
「まぁ、いいわね」
「アズ姐は誰かと行くの?」
「私はお店よ。商売繁盛するわよ、当日は」
「へぇ、頑張ってね」
パクパクとぼくはぜんざいを平らげた。雪華も表情には出していないがご満悦のようだ。