大江戸妖怪物語
「二日酔いで戦えるのか?」
「でも、やるっきゃないじゃん!」
雪華と僕はそれぞれの刀に氷と炎を纏わせる。
「では、行くぞ!」
雪華の声と同時に僕と雪華は影に向かい走った。
雪華は高く飛び上がり影を縦から二等分にした。あまりの速さに影は成すすべなく真っ二つにちぎれ、そして消えた。攻撃の手を休めることはなく、右左と華麗に踊るように敵を斬る。
「雪月花!」
雪華が叫ぶと氷のかけらが形成され、影へと飛んでいった。
影に刺さっていく。
「氷河磊落!」
雪華は手のひらに息を吹きかけた。すると手の中から吹雪が吹き荒れてきた。
雪華がそれをはじけ飛ばすかのように影にむけて放った。
影たちは一瞬にして凍結した。それを雪華は問答無用と砕いていく。
雪華の後ろに回り込んだ敵が雪華の首を絞めた。
しかし雪華はそれに動じない。体をひねり、回し蹴りを相手に食らわせた。そしてあいての顔面に氷刀を思い切り突き刺した。
僕も炎刀を使い、敵を倒す。しかし雪華のように手際よく相手を倒せない。一体一体に時間がかかる。そのあいだにも別の影が僕を襲ってきた。
「ぐっ・・・。劫火大紅蓮!」
僕は刀を一気に影に突き刺した。一体は消えたが、まだまだ影は群がりながら、僕へと向かってくる。雪華は一人であんな楽戦をしているのに、僕は苦戦してしまっている。
それがちょっと負い目を感じた。
「おうりゃあああ!」
二双の刀、紅と蒼。それが黒いものを掻ききった。
雪華はなんともない表情で影を斬り裂く。踊るかのようなその姿は、まだ余裕があるようにも思えた。
半数ほど斬ったところだった。
「――――ッッ!」
僕の右側頭部を頭痛が襲う。
(二日酔いの症状きたああ!!)
平衡感覚を失い、左へ数歩よろけてしまった。目の前がカメラのフラッシュの如く、チカチカする。
影は僕をそのまま蹴り落とした。
「がッ・・・」
地面に叩きつけられるようになり、僕の喉からは鈍い音が漏れた。
影は木刀で僕の顔面を殴った。鼻血だろうか、温かいものが口をツーっと垂れていった。
「だからそのような状態で戦闘に挑むなと・・・」
雪華は呆れながらも、木刀を持つ影をすぐに凍てつかせた。そして、僕を家屋の裏に隠す。
「神門は・・・ここで待っていろ。そして・・・今から戦いが終わるまで、私の姿を見るな」
雪華は僕にそう呟いた。
「・・・そこで寝ていろ」
僕は雪華の指示に従うことにした。戦っている雪華を見ない。
それを約束された。僕は蹲って、雪華を待った。
後ろからとてつもない地響きの音がする。まるで地震だ。
(雪華は僕の前で本気で戦っていない)
そう思わざるを得なかった。先程までの戦闘と、今、音だけ聞こえる戦闘。
耳で聞いてもわかるほど、今の方が激しい。
なぜ、僕の前で雪華が本気を出さないのかはわからない。そして本気を出したところを僕に見せないのかもわからない。・・・だから、僕はじっと待つしかないんだ。待つ“しかできない”んだ。
体育座りをし、雪華を待つ。すると後ろで気配を感じた。
「雪華・・・?!」
振り返るとそこには真剣を振り上げた影がいた。僕は太刀を抜く暇もなかった。次に走るであろう痛みに恐怖を覚え目をつむった。
しかし痛みは来ない。恐る恐る目を開けると雪華がその影の心臓部分を突いていた。
「せッ・・・・・・!」
僕は話しかけることができなかった。なぜなら、雪華の顔はとても恐ろしい冷酷な顔を浮かべていた。冷酷・・・というべきなのか。それとも恐ろしい狂気を含んだような笑みというべきなのか。それはわからない。
「そこにいろよ」
雪華にそう言われ僕は後ずさる。
雪華はまだ通りにいるであろう影に向かい飛びかかっていった。そのときの顔は、まるで殺戮を楽しむかのような・・・。
そんな顔をしていた気がする。