はちみつ
出会い
「キレイな手だな」。彼に会って最初に思った事。白くて骨ばった手の甲。うっすら浮かんだ血管。指は、手の甲の長さより少し長くて細くて、切り揃えられた爪が清潔感漂う感じだった。その左手の薬指に光る指輪が、手の美しさを引き立てていた。だから、哀しい気持ちにはならなかったし、今もそれは変わらない。
結婚している男の人は、もうそれだけで恋愛対象にしない主義だし、どんなに好みの顔で好みの声で、キレイな手であっても、永遠を誓った相手がすでにいる人を好きになったところで私に奪い取る事なんてできないんだから。
「何か付いてるかな?」あまりに凝視している私に、彼は笑いながら、でも少し警戒した様子で話しかけてきた。話しかけて欲しかったわけじゃなかったのに。でも、その声があまりにも心地よく胸に響いてしまって、すぐには返事ができなかった。「あ・・・のぉ・・」絶対、変な人だと思われる。わかってるのに、上手く言葉が出てこない。
結局、面白くもなんともない言葉が口をつく。「キレイな手だなと思って」。
小さく笑った顔は、暗い店内を明るくするくらいキラキラしていて、あぁ笑顔もいいな、と素直に思ってしまった。
「友達とか、職場の人とか、周りの人がみんなそう言うんだよな。女の子から見てもそうなのか〜」目の前で手を何度かヒラヒラさせる彼の仕種が、ちょっとだけ子供みたいで、今度は私の方が笑ってしまった。
きっと、これは恋の始まり。気付きたくなかったけど、そう思った時には手遅れで、どんな事でも簡単にきっかけになってしまうんだ。
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