空耳此方-ソラミミコナタ-
バン、と大きな音を立てて炯斗は窓に張り付いた。
「え?何?」
炯斗は過ぎ行く景色を食い入るように睨んでいる。
「ねぇ、何なの?」
痺れを切らして炯斗を揺すってみれば、炯斗は目を輝かせて振り向いた。
「見つけたんだ!」
「な、何を…?」
「もう通り過ぎたから見えない!頂上まで着いたらすぐ下りに乗るぞ!」
「は、はい」
恵が眉をいっぱいに寄せて首を捻った。
言乃もよくわからないと呆けている。
しかし一人炯斗だけがはしゃいでロープウェイを降りていった。
今乗って来たのと同じのに乗ってすぐに下る。
中腹まで来たあたりで、炯斗が叫んだ。
「ホラ、あのケーブルのところ見て!!」
恵と言乃は、慌てて窓に寄って外を見る。
二人はあっと声を上げた。
ロープウェイの指標 ケーブル
彼らを乗せる箱の上の道から、何か、ボロボロになったヒモのようなものが垂れていた。
恵は目を見開いたまま、呟いた。
「……何、アレ……」
「わかんね」
「ってコラ!!」
青筋を浮かべて振り向けば、炯斗は頭の後ろで手を組んであっけらかんと言った。
フ、と息を吐いて窓に手を置いた。
「よくわかんねぇ。でも、アレは絶対に克己さんに関係のあるなんかだ。それだけは絶対に言える」
その確信。しっかりとここにある。
当たり前だ。見ればガキでもわかる。
今までのとは比じゃない光が、あふれている。
俺の目には──筋なんてものじゃなく、あのヒモそのものが光って見えるんだから。