空耳此方-ソラミミコナタ-




一度壊れたと思った僕らの関係は、“TKR”によってすぐに戻ったように見えました。
けれど僕はどうしても、以前と同じように透くんを見ることが出来なくなってしまったのです。

その日、帰ってからは透くんと会うことも少なくなって疎遠になり、あの日のことを問いただすことは出来ませんでした。
もちろん、玲子姉さんに聞く度胸なんてその頃の僕が持ち合わせているはずもありません。

姉さんの両親にこっぴどく怒られて、しばらく会わないうちに僕も忙しくなって、姉さんに会う機会すらもなくなってしまいました。

キミちゃんにも相談出来ない僕は、その秘密をただ一人で抱えて、ずっと二人は結婚するもんだと思っていました。
それだけに、数年後に透くんがキミちゃんと一緒になったと聞いたとき、衝撃を受けました。
残念ながら、姉さんの家のこと、そして体のことを知ったのも、その頃だったのです。


僕にはもう、すべてが手遅れに見えました。


だからせめて、あの島だけは取り戻したいと思い、心に決めました。

どんな手を使ってもいいから、思い出の場所だけはどうにか守りたかったのです。
そこに立ちはだかったのが、まさか姉さんだとは思いもせずになんでもやりました。

権利者が亡くなって島の所有権が浮いた時、僕は大いに喜びました。
そして、その権利者が玲子姉さん、貴女だったと聞いたとき、僕も死のうかと考えました。
それほどに、絶望しました。

しかし、姉さんのことを調べているうちに、姉さんが島のどこかに何かを隠したらしいという情報を得たのです。
場所はあの洞窟だとすぐにわかりました。
でも、その“何か”はまだわかっていません。

必ず探し出します。
貴女の最後のメッセージを。

手遅れの告白でも構いません。貴女に伝わるのなら。

愛しています。
いつまでも、いつでも。

                  鹿沢 克己 』





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