本と私と魔法使い
「…良い顔しますのね?」

「なにが…?」


「大切なものあってこその人生ですの。見失ってはいけません。向かい合わなきゃです」


人差し指をたてて、ね?とアイリスは笑った。

「向かい合って、…後悔したら?」

「良いじゃないですか。…1番だめなのは、後悔に後悔を重ねること…ほんの少しの後悔は人生を変えてくれますの。…何かの感情を生み出すのにだめなことなんてないでしょう?」


「アイリスも、向かい合った?」


私が聞くと、ふるふる首を振って、アイリスは下を向きがちに自嘲気味に笑った。

「逃げました。…認めたくなくて、向きあいたくなくて…だから、同じ穴のなんとやらにならないための助言です。…ありがたく受け取ればいいんですの」


つんっ、と恥ずかしくなったのか、上を向いて言った。私はありがと、と短く呟いて目を閉じる。

ポケットにいれたケータイがぶるぶるふるえている。取り出して、着信を見ると"お父さん"と表示された。受信ボックスもお父さんでいっぱいだ。


私がまず向き合わなきゃいけないのはー…

「アイリスちょっと電話してくるね」


お父さんの番号を何年ぶりかに発信した。
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